小説

□ホワイトデーSS:4
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「ルルちゃんどーしたの?スランプとからしくないこと言っちゃって」
「あ、チヨいたの」
相変わらず僕にひどいこと言うくらいの心の余裕はありそうなのでとりあえずは安心する。とりあえずはね。
「あー、いや気にしないで。あれ独り言だから」
「僕がこの部屋で一緒に作業していたのに独り言とはこれいかに」
「まあ今回のノルマはもうほぼ終わってるから別にあんたいなくても間に合ってたんだけどね」
「う、うん。けどおかしいな。ノルマもこなしているし、別に今回のネタもつまらなくないしどこがスランプなの?」
いつも謎議論を僕に真っ直ぐふっかけてくる彼女とは違って、こっちから質問すると存外目をそらしまくるルルちゃん。おお、これはレアな体験…ではあるけどやはり彼女らしくない仕草でもある。
「うん、いやだから独り言。そもそもスランプって言葉って本当ならスポーツ選手とか斗鬼先生みたいな一流の作家さんとかが言うべき言葉よね。私なんかこの業界のドベが使うには気取った台詞よね。はっはー単に実力不足なだけよ」
「んいや、別に誰にでもあることらしいよ、スランプ」
「…へ?」
それこそ自分で今さら言うのも恥ずかしいことではあるけど、ルルちゃんや作者やこのシリーズを御愛読頂いている皆様(いるのか?)のほとんどが忘れているだろう、僕の家事情設定をここで待ってましたかのように言わせてもらうなら…
「僕の母さん…実はカウンセラーの仕事やってんだよ!」
「な、なんだってー!?」
あー、案の定「ソーイヤソーダッター」みたいなリアクションをしてくれるルルちゃん。うん、いいんだ。元気な姿の彼女の姿を見れればそれで…
「うわーやっべ、忘れてた結鬼さんってそんな美味しい設定だったわよね、なんで今まで忘れてたのかしら!」
(そりゃ前出た時はただハッスルしてただけだからな、母さん…)
「よーし今年のゲストは3作ぶりに結鬼さんよ、呼んできなさいチヨ!」
「い、いやちょっと待って。母さん今日普通に仕事だからこれないよ…」
「あ、まあそりゃそうよね。んじゃ普通に患者として通院するというスタイルにしましょうか。今から予約入れても大丈夫かしら」
「いやだから…」
「?」
「ぼ、僕がルルちゃんのスランプの悩み聞くよ。これでもその分野なら母さんから色々と話聞いてたし」
聞いてた、っていうか僕も半場患者として相談に乗ってもらってたんだけどね。
「うぇー」
っと、文字媒体だってのになんとも言えない顔をするルルちゃん。いやか、そんなにいやなのか。
「いくら結鬼さんの息子だからってあんたもカウンセラーなわけないでしょ?」
「は、はい。その通りです…」
「なんと言ってもまず無免許!」
「返す言葉もありません…」
「お前はカウンセリング界のブラックジャック先生か!」
「すげぇつっこみだね、それも」
なんだよ、カウンセリング界のブラックジャック先生って。意外とそこらじゅうにいそうだから怖いな。
「そもそもね、あんなに立派な方の息子だというのになんなだね君は、こんなしみったれた漫画家のつっかえないアシスタントに甘んじているなんて、情けなくないのか?私の相談にのるったって、どーせ結鬼さんから聞いたことをさながらウィキペディアからコピーしたのをそのままレポートに載せちゃうくらいの気でいるんじゃないの?んん?」
「は、はい…おっしゃる通りです…」
あれ、なんだこれ。僕今からルルちゃんの悩みを聞こうとしているのに、なんで高圧面接さながらの状態になっているんだろう。
「…まあコピーといえどそれでも結鬼さんの言葉だし、一応聞いておきましょうかね」
そんな高圧から一転、不意にいつものルルちゃんのテンションながらもどこか弱気になる彼女。普通の女の子ならテンションがピョンピョン変わろうとも可愛げがあるんだろうけど、いつも自分の世界を大切にしている彼女にしてみればこの心の上下はやはり何かしらの危険信号なのかもしれない。
…よし。
「んじゃ恐縮ですけど、不肖人気カウンセラーの出来損ないの息子の僕から申し訳ない程度にスランプという精神状態のコピペ説明をさせていただきますと」
「ふむふむ」
っといつの間にかパイプ椅子に座って就活生のように僕の話を聞いてくれるルルちゃん。おお、すごい。ルルちゃんが正しい姿勢で椅子に座っている!(我ながら驚くとこそこかい)
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