小説

□うっかりニック
2ページ/4ページ

拙者には夢がある。それハ金持ちになる事。
拙者の自国での生活は決して裕福とは言えない。でも才を持つ我の所には金が回ってくるのだ。
いつのまにか、拙者は父より稼いでいた。
そう常に勝ち続けられる事は幸福に直結する。
弱肉強食、拙者の好きな言葉でit isポリシー。
そのポリシーはここ二ポーンへ来て少し揺らいだのを覚えている。
この国の人間はのんびりし過ぎている。これを二ポーン語でいう平和ボケというのは後で知った。
バカだと思った。人生のうのうと生きようなんて間違イダ。
世界中どこへ行こうと何かしらの戦場でそこで幸せになるには勝ち続けなければならない。
そう思ってた拙者はこれがカルチャーッショックかと呟いた。
 そんなある日、拙者は部(一時入部)の朝練に出る為スクーター(愛称ガッピー)で通学路を走っている時、彼と出会った。
かの小早川湊(こばやかわ みなと)と。
「あれ?お前この前転校してきた、留学生のニックか?」
「Оhそういうあなたは確か、同じ部活の湊君?」
 
 タマタマ出会った拙者達は早朝の誰もいない通学路をスクーターで並走した(並列走行は本当はキケンよ)。
 彼もまたスクーター通学者の一人、そう彼との出会いはシートに腰掛けた状態であった。
この時まだ、彼が我の生涯のライバルになる事など、知る事は許されていなかった。

「へーニックって器用なんだなー。天才児ってやつか?確かにサッカーも上手いしな」
「HAHAそう言いますがねー拙者本当に二ポーン語の物覚えが悪いのですよ。勉強とか、今部活でやってるサッカーは自分にドンとオカマせ?みたいな感じでげすが、二ポーン語だけはどうも相性が悪いみたいで」
「うん・・・確かに悪いよな日本語。『オカマせ』じゃなくて『お任せ』だから、そんな日本語使ってると人生棒に振るから早いとこマスターしといた方が良いぞ・・・んでもニックってやっぱスゲーよな。伊達に単身で日本に来た訳じゃないってか」
「ハイ」
「じゃあさニック・・・タイムトライアルって知ってるかな、スクーターの」
「マキコトライアングル?スクーターの?」
「いや、タイムトライアルだから(わざとか)。ま早い話ここから学校までどっちが早くスクーターで完走出来るかっての競争だよ。お前が器用ってんならスクーター回すのも上手いかな?って思ってさ」
「湊君、そういうの好きなんですか?」
「やー、好きっていうか最近流行ってんだよな昼飯とか賭けてのレースって奴。特別好きって訳じゃないけどみんなやってからさ、ニックはどーかなーって思って」
つまりスクーターでのレーシング。そういう類の賭けなら自国でもやった事があった。
といっても賭け品は昼飯などではない、生活費稼ぎ、逃走などでスクーターを使った。
ふふん、スクーター操作なんてただの単純作業ヨ。
より素早くコーナーを曲がれるように軌道を見切り、ハンドルを操作する、ただそれだけのホビーだ。
「イイデスヨ。やりましょう、ウヒヒ今日のランチはシィースゥです」
「おし、じゃあオレゴマプリンな、行くぞ・・・スタートッ」
流石二ポーン人。たかがホビーに夢中などになるくだらぬ群集だ、とその時思ってた。
ブルンブルルルルルルゥキィィィィーーーー!
「いえーいオレの勝ちぃ」
 勝負は一瞬、負けだった、拙者の負けで、後から校門をくぐった。何故だ、拙者はちゃんと法則通りの走りをしてきたはず。なのに何故に負け・・・まさか拙者以上の法則を持っているとでも?悔しい。
「湊君、もももっかい、やりましょ、このまま終わるなんて私のプライドに傷がつきますってば」
「んーとはいってもなー、ほら朝練あるし。あ、ゴマプリン代百円ね」
「なら時間がある時ならいつでも。拙者に負けは許されないんですがな。拙者はそういう生き方をしてきた男だっぺ。おねげーだ。またダイブアングリでごわす」
「(日本語めちゃくちゃだな・・・)あとタイムトライアルだからね」
          ※
本当の所、スクーターなんてどうでも良い事だったのだ。
だが拙者のプライドが「二ポーン人などに劣ってたまるか」と許さなかった。
それに、負けは嫌だった。そして歳月はア・っという間に二週間の時を流した。
ブルルルルルーン、ドゴゾボーーーン。

「いえーーい、今日もオレの勝ちぃ」
二十九戦二十九敗。
あれから二十八回再戦しても、この様。しかし二千九百円を流出し、プライドがボロボロになりながらも、初対戦以来今日まで、三つ程得た知識があった。
一つが彼の驚異的なスクーターテクニックの裏付け。
聞くところによると彼の父、兄の二人はプロのフォーミュラー乗り。つまり代々プローレーサー一家の末っ子として生まれた彼は、幼き頃よりゴーカートを揺り篭代わりに与えられ、暇があれば兄の練習相手。
 別にレースの類に興味が無くとも、自然と乗るものを手足の様に操れて当たり前の生き方をしてきたらしい。
その証拠に彼の夢はジャーナリスト。スクーターは趣味だと割り切っている。
そう、趣味と言ってあの実力。湊君が蛙の子は蛙なら、拙者は井の中の蛙、これが二つ目だ。
 いくら拙者が自国でNО1であろうと世界は広い。
 才があっても世界には何十億もの人がいて、今回のホームステイで所詮自分はその内のたった一人ということを実感せざるをえなかった。
 そして三つ目が、だからといってここで南戸君に一勝も出来ずにこのまま故郷へ帰ったらそれこそプライドが傷つくという事だ。
 自分でも分かっている。スクーターなんてただのホビーだ、スクーター以外にも自分は挑戦しなければいけない事が山ほどある、世界を知ってしまったのだから。
 だから諦めろといわれても、嫌だった。勝ち続ける事よりも、何か、自分の執着したい事が我と湊君のスクーターレーシングの中にあった気がした。
 言葉としてまだはっきりといえないが、何かがあった。
          ※
次へ
前へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ