小説

□TЯIDENT(後)
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「お姉ちゃん…」
と近寄ってくるセナに、手のひらを広げた腕を突き出した。
「近づかないで、もう私はお前が信じていたライナじゃないんだ、大人しく言われた通り戻っていろよ!」
 ギッとした視線を突き刺した。変わり果てた私を険しい表情で見つめながら、セナは静かに呟いた。
「分かった、戻るよ。でもその前に一つだけ聞かせて…」
 セナは目を瞑り、深呼吸をした後こう言った。
「お姉ちゃんは私達を岩陰に隠くして、ここで何をするつもりだったの?」
 予想外の質問に、思わずビクッと体が動いてしまった。
「な、何を言っているんだ、私はただ…」
「質問に答えてよ」
ごもっていると、セナの方から再び言葉が飛んできた。
「…卑しい人間らしく、私達を暗殺者に売るつもり?だったらこんな回りくどいことしないで、とっと私達を殺している筈よね」
 ガシッ!
 と不意にセナは私に抱きついた。スイッチが入った様に私の全身は緊張し、肩甲骨が直角になるかと思うほど硬くなった。
 続いて耳に、震え交じりの声が届いてきた。
「…お姉ちゃんは卑しくなんかないよ、それより何百倍も卑怯だよ…」
「ひ、卑怯…?」
 予想外の言葉に私はタラリと汗を頬に垂らし、セナを見た。
「そうよ!いつもそうやって自分ばっかり汚れ役やって、まるで辛いことも苦しいことは全部自分のものみたいに!そんなに勿体無くてあげられないの?私だってお姉ちゃんのために汚れることやりたいよ!」
 私は慌てて、セナの肩を掴み言い返した。
「バ、バカ。修道女がそんなこと言うな!」
 修道女以前に!この言葉に続きセナの力強い言葉が全身に響いた。
「姉妹でしょ!姉妹ならどんなものでも姉の独り占めにしちゃダメだってエリアス先生も言っていたでしょ!私が一番ショックを受けたのはそこよ!」
 …こんな大きな声を出す子だっけかな…そう目を点にしながら小さい顔ながらも大きな口から出る声を聞いた。
「本当の姉妹なら少しくらい私にも辛いこと分けてよ!妹と姉のものを仕分ける段取りが上手いのが、立派な姉ってもんでしょ!」
 段取りって…どこか間抜けなフレーズに私はキョトンとした。
「大体お姉ちゃんったら自分の汚い所は見せる癖に相手の汚い所は見ようとしないんだから!」
 ブッー、とセナは口を尖がらせた。そして、ビシィと私を指差した。
「私だってバカじゃないのよ!いきなりお姉ちゃんが私を助けに来てくれるって非現実、そう簡単に信じる訳ないでしょ!何となく怪しいなって思ってたわよ!お姉ちゃん、何で私がつっこまないと思ってたの!」
 あ、やっぱりそう思ってたのね、と私は目をパチクリさせた。
「…私もお姉ちゃんと同じ…」
 急に声のトーンが小さくなったセナは、またさっきのように俯きながら言葉を発し始めた。
「…誤魔化してたのよ。寧ろ正直に告白してくれたお姉ちゃんより悪質よ。夢の様な時間を壊したくない、だから現実を見ないふりをしていた。嘘をつくことに罪悪感を感じなかった点に関しては、私の方が罪深いわよ。自分勝手でお姉ちゃんを傷つけた私が謝るべきよ」
「いや…でも私は人殺しの誤魔化し、お前とは罪のスケールが…」
「ちゃんと私に弔わせたくせに何言ってんだか…」
 横目で私を見つめ、小憎たらしい表情を浮かべながらのセナはそう言った。私は苦笑いをしてこの言葉を返す。
「まったく………やっぱ強くなったよな、セナ」
「当たり前でしょ、誰の妹だと思ってんの!?」
 再び私に顔を向けてくれたセナは、大きな声を私に伝えてきた。
「それで?『辛いこと独り占め大好き』なお姉ちゃんは、ここで何しようとしてたの?ほら言ってみなさい!」
 活発に言うセナを見て、私は改めて思った。
 やはり私は間違っていたんだ。
 私がこんなに情けない姉なのに、セナはこんなにも立派に育ってくれた。
 セナが強く育ってくれる、それ以上に嬉しいことなんて本来ないはずなのに、何で私は彼女の前では情けない姿しか残せなかったのだろう。
 手を胸に当て、もう一度考えた。
 今、私はここ何をすべきなのか、彼女にどう応えてあげるべきなのか。
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