10/17の日記

20:24
灰夜叉4-1
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注意!今回の記事は通常記事ではなく「Cassis」という作品の二次創作連載シリーズものですので閲覧にはご注意ください。
はい、ってなことで「4」の続きです。一応毎回言い忘れそうになりますけど、原作者の方がいる作品ですので本人様にご迷惑かけないよう、あくまで二次創作の範疇としてマナーを見て下さっている方も合わせて守ってもらえると助かります。
昨今は、っていうかたしか去年の九月十月も考えさせられる事件とか話題がありましたからね。文章を書く以上は受け手側にも原作者に対してもならべく全員に不快な思いがないようにしていきたいところですけど
(…このブログや作品の方針が実はめちゃくちゃ原作に対してハラスメントになっちゃいないか?)
って思いを毎年常に気を付けてどんなメディアで表現するにしても誤解が極力ないようにを肝に銘じて書いていきたいと思います。
不快だったら消すから容赦なく言ってね(ってかれこれ六年くらい言っている気がする…)。
ってなことでマナーを守っていよいよ「4」の本格スタートです!

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「んもー魅耶さんったらその人のことなると甘いんだから!どいて下さい、私が頭かじって無理矢理にでも起こしますから!」
「あああ!佳乃子さん!ダメだってそんなことしちゃあ!ほら華倉さん起きて下さいよ!かじられちゃいますよ!」
「…ふむ、さすがに女子にそんなことさせる訳にはいかないからそろそろ俺がいつもみたいに手を汚すとするかな。おい起きろ篠宮!いつまで寝てんだこのゴリラ!」
 げしげし、っと臀部にそれとない衝撃が走る。
「うぶっ!ぐひぃ!」
「かー、浅海君もやりすぎだよお!」
「でも頭かじられるよりは良いだろ?これでも手加減してあげてるし」
 っとこのタイミングでさすがの俺も怒るとする。
「んだー!何やってんだてめーら人の家で!大人なんだからもうちょっと常識をだな…ってあれ、ここどこ?寒い?」
 家の中だと思ったが、発した声はこだまして反響せずに飲みこまれていく感覚に襲われる。エコアンガンガン聞いている部屋にいるかとも思えば、肌寒い外気が毛穴をそれとなく刺す。秋の夜長の静かで冷たい細かい針のような寒さだった。
 あんまりな起こされ方と取り巻く環境の意外性の衝撃でさっき夢で見ていたことの大半が吹き飛んでしまったようだ。っていうか今この状況も夢なんじゃないのかとも思える。
 けど寒さは感じる。
 さっき鼓膜を揺らした声の主は、さっきの夢と違ってしっかり俺が認識できる実在の人物のものだと判断できた。
 逢坂魅耶。
 塚本浅海。
 それと明島…えーっと、佳乃子さんだっけ?魅耶の許嫁の。
 あとは見知らぬ風貌の和服のコスプレをした男性が二人、計五人ほどが俺を囲んでいて各々心配そうな目線を向けていた。
 この奇妙な組み合わせもさることながら、周りの風景はどこかの山奥のように声が反響して、そしてこの時期らしい人肌が恋しくなるようなひんやりとした壮大な空気に覆われていた。
 いや、変な人達に囲まれていて恋しいというか変な気分は満たされているんだけどね。
 え、これ何?
 どんなシチュエーション?
 夢の続きならこたつ出てきてくれないかな。
「キュアップラパパ!こたつよ出てきなさい!」
「夢じゃないですよ、華倉さん」
 けどさっきの夢とは違って今度はしっかり認識できる魅耶と浅海がどうやって説明責任を果たそうかと互いに顔を向き合っていた。訳の分からない人に自分のペースでベラベラと話されてしまう、って状況でもなさそうである。
 後ろに知らないおじさん二人いるけど。とりあえず今は達観に徹していてくれているようである。
「…とりあえず一番の当事者同士なんだから、篠宮への説明の主導権は魅耶に任せるぞ」
「心遣い感謝するよ、浅海君。でも僕も全部を全部完璧に説明しきれるとは思えないから所々不備なところがあったら補足してもらえると助かるな」
「うい」
 っとフランス人みたいな応答をする浅海。こいつこんな砕けた奴だっけかな。あ、魅耶とはそういえば意外と仲良かったんだよな。俺にはスズメバチみたいな対応してくるけど。
「…二人で対応し合っているところいきなり口を挟むようで心苦しいですけど、やっぱり私は反対ですね、魅耶さん」
 っと二人の間からニュッと明島佳乃子さんが割り込む。長田も熊田も割と身長が高い方だったので、このメンバーの中で小柄な女子が間に割って入ると言う図は単純に珍しかった。
「確かにこの人は今回の事件に関する重要な役割を担ってはいますけど、それはあくまで潜在している能力であって篠宮華倉という個人としては一般人と変わりないですよ。そんな無関係な人間を巻き込むという不義理を働きつつ、時間まで割いてわざわざ説明する必要があるとは思えませんね。人道的でもなけれな効率的でもありません。やっぱりもう一度ぶっ叩いて気絶させて置物にしておいた方が互いのためになると思いますね」
 っと。
 冷たい目でもの凄い仕事の出来る人間めいた発言でもの扱いされてしまった。
 え、何この子。こんな物騒なこと言う子だっけ。何か俺の知っているイメージの明島佳乃子さんっておしとやかなお嬢様みたいなところがあったのだが、それは仮の姿で実は忍者とかだったのだろうか。
 それともクレイジーな魅耶と一緒になって影響されて豹変してしまったのだろうか。考えてみれば夫婦になる予定だってのに、失礼ながら魅耶と明島さんのツーショットが実はこの中では一番珍しい組み合わせに見えてしまう。
 …やっぱり俺の見てないところではちゃんと夫婦として影響され合っていたのだろうか。
「はあ…佳乃子さん、あんたがそれを言うか…っとは思うけどよくよく考えたら数多くの覚悟をした貴方だからこそ華倉さんに言う権利があるかもね。分かった、貴女の気持ちは最低限汲み取るよ」
 うむ、何だかよくは分からんが二人の間で通ずる気持があるようだ。成り行きで夫婦になった両者だと思っていたが、ちゃんと信頼関係を構築していたんだろうな。
 俺の見えないところで。まあ当たり前なんだけど、少し寂しい気持ちになる。まだ夢の中にいるような疎外感を感じてしまう。
「とりあえず最低限度の力でぶっ叩いて眠らせますか」
「ひ、ひえー」
 また夢の中に連れて行かれる!怖い!
「そういう意味の最低限じゃないから!ったく佳乃子さんったらクレイジーなんだから」
 魅耶にそう言わせるなんて、この人笑い事じゃなく本当にヤバい人っぽいぞ。
「…確かに何も知らない華倉さんに一から説明する何て手間かもしれないよ。でも言うてこの場にいるメンバーは各々の特殊な事情でこの事件に参加して、各々中途半端な状態や途中経過を中断してこの場に成り行きで集合したに過ぎない状態だよ。情報共有してない部分に関してはもしかしたら華倉さんと大差ないかもしれないし、とりあえずそれを確認する意味でも一番の第三者に言葉で説明することは大切だよ。違う視点で違う情報を噛み砕いた時に初めて分かることだってあるんだからさ」
 …い、一番の第三者?
 日本語としてちょっとおかしいけど、それってやっぱり俺のことだよな…?
「…分かりました、すいません魅耶さん。本来部外者である私が過ぎた真似をして」
「良いんだよ、君だからこそ言えることだからね。それにさっきも君自身も言ってたけど、ここまできたらもう部外者なんて寂しいこと言わないでよ。僕達夫婦なんだからさ」
 かっー、夫婦だってよー!フッフー!
 …魅耶もそういうこと言うんだな。変わったんだな。
 …変わってしまったんだな。
「み、魅耶さん…」
「おほん、お熱いのは良いことだがお二人さん、篠宮がポカンとしているからそろそろ話を戻してあげなさい」
 っと後ろから浅海がポツリと呟く。浅海から援護射撃なんて明日は雪なんじゃないかな。
「ああ、そうだった、コホン、えーっと華倉さん、落ち着いて聞いて下さいね」
 改めて魅耶と面向う。何だろう、普段見ている顔なのに、何だか色んな戦いを経た後のようなたくましい顔つきの魅耶だった。
「今あなたの中の憂い巫女を巡って戦いになってます」
 は?
「何言ってるの、お前、頭おかしいんじゃねーのか?」
 俺はさも当然な反応をしたつもりだったけど、周りの人間達は『あーまあ最初はそう言うよねー』みたいな小慣れた雰囲気を醸し出していた。あと何か明島佳乃子さんの視線が怖い気がする。
「憂い巫女ってあれだろ?篠宮家伝承の紙芝居に出てくる妖精さんみたいのだろ?確かうちはあれを祭る神事を司るのが古くからの役目で成り立ってきた家系だけど、所詮そんなの昔話に過ぎないだろ?こっちとしてはお盆とか超多忙でイベントいけなくて現代人としては何にもありがたみのない設定のあれ」
「伝承者直々にあれ呼ばわりされるのもかわいそうですけど、そうです。まあ佳乃子さんが散々罵倒した後だからそれでもまだソフトに聞こえちゃうのが逢坂家次期党首の僕としても問題なんですけど」
 これでもソフトなの?
 明島さんどんだけ酷いこと言ったの?
「はあ〜、んでその俺の体の中にいるって設定の憂い巫女ちゃんを取り出してどうするわけさね。カセットテープみたいに出てくるの?」
「例え方古っ。さすがの僕でも昨今はそう言いませんよ華倉さん。さめてCDみたいにミョンっって出てくるものだと思って下さいよ。ジョジョ六部みたいに」
「俺ジョジョそこまで詳しくないし」
 魅耶って意外とオタクというか色んな価値観をとりあえず認める節があるから何でもかんでも手を出しちゃってるんだよな。それでいて別にミーハーって訳じゃないからたまにこの感覚が素直に羨ましかったりする。
「まあその憂い巫女ちゃんのCDがあれば妖怪が強くなっちゃうんですよね。あ、妖怪って分かります?」
「いやそれは知ってるよ。ジョジョの後だと急に庶民的になったけど。っていうか妖怪って本当にいるの?俺知識としてはゲゲゲの鬼太郎が精一杯なんだけど」
 最近鬼太郎もいっぱい種類いるから変に知っている風なこというとまた突っ込まれるかもしれないけど。俺の知っているのはアンパンマンの声の方の鬼太郎だ。
「まあ鬼は鬼でも憂い巫女はどちらかというと鬼側の存在ですね。憂い巫女の力を他の妖怪に取られないよう共生関係にあるのが僕ら逢坂家の血の中に封印されている鬼なんですよ」
「へ?あ、鬼?そういえばそういう伝承だっけか。それも設定じゃなくて本当なの?」
「ええそうですよ。そこでたむろしてる変な着物着てる二人いるじゃないですか。その内の一人…一鬼、あのなんかカチューシャみたいのしてるのが僕の血の中に封印されいる創…あ、今名前違うんだっけかな。そもそも今はペアリング関係崩れてるから封印されている訳でもないんだよな。ややこしい」
「ややこしいのはこっちだよ」
「ああ、スマソ」
「スマソ!?」
 何だか魅耶もすっかり砕けてしまって別人のようだった。今にして思えばここ一カ月くらいの魅耶って結婚式控えてい忙しそうだった割にどこか活動的に見えたもんな。おそらくそのくらいからこの事件に巻き込まれていって変わっていってしまったのだろうか。
「さっきも言ったように、今この状況だってまだ事件の渦中真っ只中だからそれを整理するためにも今最も頭の中が空っぽであろう華倉さんに夢詰め込める代わりにしてみんなで情報共有するための器にしたいんですけどね」
「いや、俺の頭既にパンパンなんだけど」
 っていうか頭空っぽとか普通に失礼だな、こいつ。
「あああと紹介し忘れたんですけど、その鬼の隣にいるもう一人の着物来たなんか変な人。この人の名前がですね、ほ…」
 んあああらめええこれ以上新しい情報入らないっー、頭空っぽじゃなくて元々要領が少ないだけだからこれ以上は堪忍してえええ。
 っと叫ぼうと思った手前、ついさっきまで向こうにいたはずのその変な人が音もせずにいつの間にか俺と魅耶の間に割って入ってきていた。
「うわ!何だこの変な人!?」
「うぃー魅耶さーん、このままでは華倉さんが混乱してしまいますのでこのタイミングで一度私にバトンをタクシーしてくれませんかねー」
 え、何この気持ち悪い喋り方。
「ほっ…」
「んー、ストーップ、です」
 ピタリと人差し指を出して魅耶の唇を抑え込む変な人。字面だけで言ったら痴漢現場の目撃である。
「余裕がないのでぶっちゃけますと、まだこの段階で篠宮華倉さんに私の真名を告げたくないのですよ。あなたが言いそうになったから不躾せすけど割り込ませてもらいました。理由は…さっきのそこの鬼の例を見たあなたなら察しはつくと思いますがね」
「?」
 この様子だとこの人と魅耶の間で既に何かしらの出来事があったらしい。お互いに通ずるキーワードでぼかされている感じだ。
「ああ、そうだったそうだった。僕としたことが迂闊なことを」
「まあ今はそういったお互いのタブーの境界線を篠宮華倉さんを介して確認する場でもありますからね。早速模範的な例ができて良かったと捉えまショ」
 にしてもどんな経緯があったにせよこんな奇抜な人と知り合いになれただけでも今の魅耶の凄さを実感してしまう。片言の外国語を喋っているからやはり外人さんなんだろうか。それにしてはコスプレっぽくないガチの和服の衣装を着ていらっしゃる。本格的に形から入るタイプなんだろうか。
「んじゃあ華倉さんの前であんたのこと何て呼べばいいんだよ」
「んーじゃあここは元の文字をいじって『ウホウホさん』ってのはどうでしょうかね?」
「ウ、うほっ!」
「は、はあ…あんたがそれで良いなら別に文句はないよ。あんまし隠してないと思うけど」
「良いですよー、私もどうせ砕けるならこれくらいの方が良いですしねー。話をきくところによると、篠宮華倉さんもゴリラ好きみたいなのでちょうどいいんじゃないでしょうかねー、ね?塚本浅海さん?」
「ああ、そうだな。その方が華倉も喜ぶだろ」
 あ、浅海もウホウホさんと知り合いなのね。っていうかお前だろ!俺がゴリラ好きなの言いふらしてるの!こんな見ず知らずの変な人にまで知られちゃって!恥ずかしい!
 で。
「んじゃこの話の流れだと、このウホウホさんって人間じゃなくて妖怪なの?ゴリラの?」
「そうだよ」
 いやまあそういう名前ですし。しかし昨今は凄いな、外国の動物モチーフの妖怪もいるのか。まあ動物園で日本に滞在してイメージが定着している代表的な動物なんだし、新種の妖怪として生を受けるのも納得だろう。
 変な日本語はやっぱり海外の名残なんだろうか。
「妖怪ですけど人間に擬態するのが上手くて憂い巫女の力も僕達と一緒に守ってくれる優しい妖怪です」
「ウホウホ、優しい。強い、戦士」
「いや〜照れちゃうウホな〜」
「…名が性格に影響出始めちゃってますね、これはこれで危ないのでふざけてないでとっとと話を進めましょう、皆さん。全くウホウホさんったらすぐ影響されちゃうんだからー」
 っと脇からひょっこり明島佳乃子さんが出てきて場をまとめる。この台詞からして明島さんもウホウホさんとの付き合いが長そうなのが伺える。
 明島佳乃子さんとウホウホさん…両者俺にとってそんなに繋がりがないような関係に見えるけど、水面下ではどんな交流があったというのだ。全く想像ができない…
「んじゃ良い妖怪と悪い妖怪がいて、その悪いモンが俺の中の憂い巫女ちんの力を奪いに来ようとしてるんだな?まずは単純にそこから説明してくれないか?」
「それはですね…」
「おっと、このタイミングくらいで俺が出てきた方がいいかな?」
 っと後ろの茂みからがさごそと音を立ててそれなりにがたいのいいおっさんがニュッと出てきた。
「え?誰?」
「さ、猿見田?」
いや、猿見田って誰?また新しい人?
「どうも、お久しぶり。初めましての方ははじめまして。俺の名前は猿見田由一郎。しがない探偵をやっている者だ」
「くっ!どうしてお前がここに!」
 魅耶が飛び出そうと身構える。この反応からしてこの猿見田という男は敵なんだろうか。
「落ち着け、魅耶」
 ポンっと魅耶の肩を叩いて静止させる浅海。こいつ魅耶に対してはめちゃめちゃ優しいんだよな。
「さっき軽くしか説明してないから混乱する気持ちも分からんでもないが、俺がお前らと合流している時点で何となく察しはつくだろ?」
「…ああ、そうか。浅海君と猿見田って戦ってたはずだもんね。それが今こうして二人で大人しくしているってことは…なるほど。じゃあ僕らの敵になったってのもあれも嘘だったの…か?」
「まあ概ねその通り」
 話が全然読めない。元は頭空っぽの俺に説明することで状況整理するって企画だったはずなのに、もう授業についてけない子供みたいになってしまった。寂しい。でもさすがの俺ももう大人なので一言文句でも言おうかと思ったが、またまたニョキッと俺らの間から明島佳乃子さんが生えてきた。
「え?猿見田さん?あなたが『猿』の猿見田さんってことで良いんですよね?珍しい名前ですし」
「げ、そういうお前は明島佳乃子」
「「二人とももう知り合いだったの!?」」
 っと魅耶と浅海がハモる。中々こちらも珍しい現象である。
「いやまあ正確に言うと顔は合わせてないんですけどね」
「どどど、どーいうこと!?佳乃子さん!あなた一体どういう経緯で猿見田と会ってたの?貴女予想以上にこの次元に首突っ込んでるよね!ホント!」
「いやあそれほどでもですけど…」
「褒めてない!」
「でもそれこそ一から全部話すとなると長いですよ?魅耶さんと長田さんの密会から話すことになります…あ、言っちゃった」
「そっから関わってたのか!あんた!」
 ジュポッ、っと猿見田がタバコに火を着ける音がする。
「まあ落ち着けよ、逢坂魅耶。妻の安否を気遣う配慮は汲み取るが、今優先すべきはそれじゃないだろ。まずは俺が今度こそ敵じゃないことをそこの塚本浅海から説明してもらえると助かるかな」
 ああ…俺への説明が結局どんどん後回しにされていく。
 …そりゃそうだろうな。明島さんも浅海も魅耶も、俺の知らないところでそれぞれの戦いと物語を経てきた主人公なのだ。ポッと出のモブの俺が口を挟めるところなんて、元々どこにもなかったのだ。今は大人しく石に徹しているとしよう。
「チンチンもみもみ!」
 突如俺の股間を何とも言えない刺激が襲う。
「はあふっ!」
「オゥ、いけませんねー篠宮華倉さん、集中力を解いては」
「ウホッ!ウ、ウホウホさん!?」
 ウホウホさんが俺の股から顔を出してこんにちはしていた。
「蚊帳の外の気持ちも分からなくもないですが、この話の中心はあくまであなたですから、今はどうか耐えてもらえると助かりまーす。自信を持って下さいね。あなたは主人公なのですから、篠宮華倉さん」
「は、はあ主人公ね」
 励ましてくれているんだろうけど、こんなクズの自分が主人公の話とかあっても誰も見ないだろう。あと蚊帳の外というより股の内である。
 どちらにせよ主人公らしき人物の股の内が大変なことになっているというのに、やっこさん連中ときたら絶賛身内話で盛り上がっている最中だった。
「つまりだな魅耶…この猿見田は敵でありながらスパイとして俺達の仲間になったとみせかけて実は敵だった…でもなく本当は敵ではなかったというわけさ」
「ややこしすぎるよ、浅海君。話が半分も入ってこないよ」
 まあ俺からしてみても支離滅裂な日本語ではあった。
「まあつもる話もあると思うがとりあえずシンプルに俺の本来の雇い主を告げるとなるとお前らにも話した『蟹瀬直』だ。そこは嘘じゃねえ。俺はそいつの命で桃太郎連盟の『猿』のフリをして潜入。犬塚冬界の近くに近づいた頃合くらいで桃太郎に怪しまれないよう『猿』の演技を再開する必要があったまでだ。塚本浅海と戦っていた理由がそれだ」
 ???
 誰だ誰なのか何のこっちゃの固有名詞が増えてきた。え、今何かしれっと二、三人増えたよね?ちょっと、不親切過ぎない、こいつら?ノートに書いてないことを教えた前提で進まないでくれよ。ノート取ってないけど。
「おいおいその言い草だとまた煙に巻こうとしているな。もうお前の口八丁には載せられないぞ。言えよ。仮にそれが本当だとしたら中継の協力者がいるはずだろ。お前と犬塚冬界の距離が近づいたことを知らせて『猿』の演技を再開する指示を出した人物。『蟹瀬直』が仮に本当のクライアントとしても、お前も言っていたよな?潜入調査をしている立場上、お前と蟹瀬は頻繁な連絡ができない間柄で当面の桃太郎連盟との連絡役を担っていたもう一人の人物がいるはずだ。そこをゲロらんことにはお前はまだ敵だぜ、猿見田」
「…やれやれ、塚本浅海にはやっぱりばれているみたいだな。寸前まで戦っていたってのもそうだけど、やっぱりお前と俺は似たモノ同士で調子狂うね、どうも。そうだよ、俺の大元の雇い主は『蟹瀬直』ではあるが確かにお前の言う通り俺と蟹瀬の間にもうワンクッション探偵として桃太郎連盟のスパイをしてほしいと依頼をしてきたクライアントの存在がいる…十年前からな。皆まで言うとつまらないからそろそろ明島佳乃子あたりにバトンを渡してみようかな」
 パチン、っとかっこよく指を鳴らして明島さんを指名する。
「え?私?ごめんなさい、話全然聞いてなかったです」
 ずこー、っとずっこける一同。猿見田も一緒になってくれたので、暗そうな見た目に反して割とノリは良さそうな方である。
「話聞いててよ!佳乃子さん!」
「いや、だってつまらなかったし…」
 ああ、やっとここに来て共感できる人物が増えた気がする。明島さんとシンパシーしたとか言ったら本人からキレられそうだけど。
「んじゃあここで私の名前を出したってことはこの一連の流れでもう会ったことのある人物だってことなんですね、猿見田さん」
「まあ聞くところによると結局出会わず仕舞いだったみたいだけど、ほぼ近くにまで接近しているんじゃないかな」
「…そもそも佳乃子さんと猿見田が出会った経緯も謎のままだしな…そこら辺はまた別の機会に聞いておきたいところだけど…」
「あ、猿見田さんと私の共通の知り合いと言ったらやっぱり彼ですか?」
 彼、ってことはやっぱり男性だろうか。
「サウザー」
「いや、違うよ!」
「おめーが原因だったのか!猿見田!佳乃子さんに変な知識付けさせたのは!」
「いや、蟹瀬とならともかく俺、明島嬢と『北斗の拳』に関するトークしたかな?」
「あ、これファミレスで落とした本ですよね?お返ししますね、猿見田さん」
 スッと明島さんは懐からとある本を取り出す。何だか悪役そうな男がニヤニヤ不気味に笑うなんの本かは分からないけどとりあえず『北斗の拳』っぽい表紙である。
 何、あのふざけた本?同人誌?
「あなたのせいだったんですね!ムッキー!こちとらその本のせいで身に覚えもないのに南斗鳳凰拳伝承者扱いされたんですよ!」
 激昂するウホウホさん。え、何そのイジメみたいな名前。かわいそう。
「…何か俺の落とした本のせいで変なことになってる?状況がさっぱり読めねえよ…ったく、本当は探偵としてクライアントの情報を漏らすのは御法度だがこの際事態を収拾するのにしょうがねえか。いいか、俺を偽の『猿』として桃太郎連盟のスパイとして送り出した人物。それは明島佳乃子、お前も良く知るK…」
「おっと、これ以上は今度はクライアント冥利として探偵に言わせる訳にはいかないかな」
 っと、また新しい人物の横槍が入り猿見田の台詞を遮る。横と言うより急に上からストンと落ちてくるようにその人は現れた。
「お、おま!」
「…貴方がK…Jさん?っていうか…」
 ポカンとする一同。そのリアクション自体はみんなと一緒になれたが、唯一俺だけはその声を普段聞きなれているからこそという意味での意外だったのかもしれない。
 何せおれにとっては幼少期の頃から聞いている声。回数事態なら魅耶よりもずっと聞き馴染みのある声の主が、この事件における重要人物らしきタイミングで現れてしまったのである。
 …え、ちょ。
 魅耶だけじゃなくて、あんたまで俺をのけものにして裏でこんなことやってたってのか。一体いつからだ?
「「「菱人さん!」」」
「菱兄ぃ!」
 あ、菱兄いなんて未だに呼んでるの、俺だけだったわ。

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(マナー全然守れない気がする)
思ったほど話が進みませんでしたので来週はもうちょっと進めます
カテゴリ: 創作

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