Buon Compleanno.

□Lr.02
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 ガタンと揺れる二台。移動はやはりこの薄汚れた緑の二台。ここは一般兵と変わらないのか、とどこか安心していた。

「敵はBランクだ。私たちに出来るのは精々少し弱らせることだけだろう。」

それほど、敵は強い。
敵のランクはS〜Eまであり、DやEは一般兵が倒せる範囲。ランクCは部隊C、ランクBは部隊B、部隊AはランクA以上が対象となる。
今回の敵は完全に自分たちのLr.的にアウトラインを完全に踏んでいる。

「B部隊はなにしてんの?」

「全部、西ブロックにまわされたそうだ。」

「使えねー。予備置いておけよ。」

「後で来ると思うから、それまで生きよーねー。」

日常の1コマのように自然に話す3人に、ついていけない。
生死の話をしているというのに、彼らは何故こんなにも穏やかに世間話をしているかのように話すのだろうか。
 最近、西ブロックの再開発エリアでモンスターが大量発生しているのだ。それが全てランクB以上。
聖都に来る前に全てを片付ける為に、B部隊にが大量に送られた結果が、これだ。
どこかに道があったのか誰も予防戦を張っていない閑静な住宅街に出てしまったようだ。
そこでふと、思う。

「あの……、A部隊も西ブロックに出ているんですか?」

軍隊の中で一番強いA部隊。しかし彼らの戦歴は闇。届いた資料にもB部隊の任務内容や実績などが事細かに載っているものの、A部隊のことは存在があることのみ以外何も記載されていなかった。
つまり、極秘中の極秘。

「あー、そうだねー。A部隊が出てくれれば楽なんだろーけどねー。」

ガーネットが思い出したかのように、愛剣の刃を磨きながら答える。
その横に座るクォーツが、身を乗り出す。

「A部隊は聖府からの極秘任務が殆どだ。私たちのようなモンスター退治などはあまりしない。」

「ズルイよねー。」

「その分、任務のLr.は想以上に高く、辛いらしい。」

ガーネットの愚痴にもきちんと答えて、クォーツはまたその身を車に預けてアイテムの確認をし始める。
 目的地まで残りわずか。左腕に填めたパワーアップのバングルを上から触れる。
慣れないそれは、ただ腕を締め付けているとしか思えない。本当に効果はあるのだろうかと心配になる。

「シェル、どうかしたー?」

「バングルやったことなかったので、違和感があって……。」

磨き終えたのか、狭い二台だというのに関わらず右腕を伸ばして垂直に立たせて反射具合を見ていたガーネットが声をかけてきた。
バングルを頻りに気にするシェルに気がついたのだろう。

「そういえばシェルはマジックタイプではないのか?」

「えーっと……。」

クォーツの声に言葉を濁す。
 シェルは戦闘時は愛銃のサンライトをぶっ放す。しかし、銃ではあまり相手を弱らせることができない。
その為、研科が作った銃特性の魔法弾を用いて戦闘をする。
普通の弾は見せ掛けで、1テンポ遅れて発射される魔法弾で相手を弱らせる。
物理でもあるようで、魔法でもある。
なんとも曖昧なものを使っているのだ。

「シェルのデータ読んだら、武術が巧みだってあったよー。だからパワーアップが支給されたんだよー。」

「しかし、武術は前衛に出なければ、無意味だ。基本的にシェルは銃で戦うと記載されているのだからマッジクアップを渡すべきだ。」

「私に云っても無意味ですよー、リーダー。」

確かに、二人が話していることは私のデータに記録されていた通りだ。
昔父に武術を学んだこともあり、ある程度の敵ならば、武術で倒すことも可能だ。
しかし、父が他界してからは母の薦められて、銃を使う様になった。母はもともと軍隊に所属していて、その時銃を使っていて使いやすかったことをを経験者の意見として熱く語られたからだ。
普段の戦闘では銃しか使わないのに、あえてパワーアップのバングルが支給されたのだから、もしかしたら「武術で行け。」と云う上からの圧力なのかもしれない。
しかし最近はあまり素手で戦ったことなど無くて。ましてや、対モンスターとなると素手でなど戦いたくない。意識の問題だ。
父に教えられていたときは、同じぐらいの歳の男の子と戦った時はあったが、やはり無理だろうと思う。

「なら私のをやろう。」

「は?」

ぎょっと目を見開く。
クォーツが懐からごそごそと取り出してきたのは光沢された銀のバングル。常に磨かれて大切にされていることが伺えるものだった。
それを斜め向かいのシェルの方へと差し出してくる。

「え、そんな、自分で手に入れますからっ!」

「どうせあまりものの使い古したものだから。」

そんなに綺麗に磨かれていて、使い古したとは何事だ。
どうみても、大切にしている感じではないか、とシェルは内心毒を吐く。

「貰っときなよー、折角だしー。」

「でも、……。」

「貰わないで、殺られてしまエ。」

「なッ!」

ガーネットの言葉にも悩んでいる最中、唐突にダイが割り込んでくる。
それもドキツイ言葉で。
ここは完全に怒るべきところだ。さっき笑ったことも含めて、思い切りぶん殴ってやりたい衝動に駆られたシェルは左手に拳をぐっと作る。

「ダイ。」

「へいへい。」

クォーツが名前を呼べば、自己紹介をした時と同じく右手を上げて軽く合図するかのように手首を振る。

「シェル、受け取れ。」

「……ありがとうございます。」

先程のダイの言葉が聞いたのか、何か自棄になってクォーツの方に手を差し出してバングルを受け取る。
支給されたバングルを外して、同じところにクォーツに貰ったバングルを填める。
やはり、慣れない。

「あの、自分で手に入れたら返しますんで。」

「返さなくていい。それはお前にあげたんだ。」

「でも……。」

やはり落ち着かない。人の物持っていると落ち着かないのだ。
リチアに薦められた本だってそうだ。
図書館で借りたものであって、人から借りたものではないので、早く読んで返さなければと思う。
リチアと会う前はもっと酷かった。返却を気にしすぎて、借りて数ページ読んですぐに返した。
その後の展開が気になるものの、気になるLr.は返却のほうが遥かに上だった。
だから、今もとても気になってダメなのだ。

「わかった。ぞれじゃあそれはシェルの戦神合格記念だ。それでも気になるようなら、返さなくていい分しっかり部隊の為に貢献しろ。」

「……はい。」

上手く丸めこまれた気がする。
 ガタンと、二台が大きく揺れる。
設備や支給物は良いものばかりなのに、何故二台だけは新しくしないのだろうか。
平坦に設備された道路でさえもガタガタと揺れる二台は、一般兵ではポンコツと呼ばれていた。
上官の前でポンコツと云った奴は、反省文を書かされたらしい。
ポンコツにはなにか秘密があるかと噂されるきっかけでもあった。
しかし今のところ一番有力な噂は、年に一度の塔費会議の時に軍事塔の費用が研究塔にがっぽりとられているというもの。
そのせいで、ポンコツにまでお金が回らないとか。
 そういえばと思いだし、シェルは懐から携帯を取り出す。
着信はなし。ほっとしたような、寂しいような変な気持ち。
シェルが一番メールする相手はやはりリチアだった。
ただし、毎回シェルから送り始める。リチアからメールが来ることは本当に滅多にない。
たとえばシェルの誕生日くらいだ。
そんなリチアのメールは最低限のことしか書かれていない。
その中で一番短かった返信が。

『了解』

たった2文字だけ。
無愛想で、無頓着。大気に溶けているかのように気配は儚く、薄い。いわゆる不思議ちゃん。
リチアは友達がほとんどいない。知人でさえも指で数えるくらいだ。
もしかしたら友達はリチアだけなのかもしれない。
そんな友達のいない2文字メールを送ってくる不思議ちゃんと親友を続けて6年、今まで一度も喧嘩をしたことのないシェルは自分も凄いと思っている。
リチアにメールを送ってみる。

『戦神 初任務にいってきま〜す!!』

返信を待つ間もなく、電源を落として懐にしまう。
戦闘中に着信がきても取れないし、その音に敵が反応するのを防ぐためだ。
これは訓練生の時に習う基本だ。

「おい。」

 声の方を振り返る。何事だと思えば、こちらを見ている奴がいる。
先程笑ったり、失礼なことを云ってシェルの中で厭な奴に認定されたダイである。
小首を傾げてみれば軽く頷いて。

「お前だよ。」

とか云ってくる。
お前って、アンタこそ何様なのとかおもいながらも「何?」なんて言葉を託してしまうシェルだった。

「お前の母ちゃん、元気?」

「なんでアンタにお母さん心配されなきゃいけないのよ。」

知らない奴、それも厭な奴に母を心配される意味はないと、シェルはきつく睨みつける。

「あれー?二人は知り合いなの―?」

ガーネットが楽しいものを見付けたかのように身を乗り出して話に混ざってくる。

「うっせ、ガーネットは黙ってろ。」

「酷ーい。シェル、こーゆー奴と友達になっちゃダメだよ。」

「勿論です。」

とは云うものの、少しだけ。ほんの少しだけリチアと似てると思ったシェルは内心焦ってしまった。
シェルを見ながら、ガーネットに向けてシッシッと手を振るダイと、それに屈せず自由に話しかけるガーネットは姉弟のようだった。

「で、元気なの?」

「……いちおう。」

「なら、いい。」

一体何がしたいのかと、苛立つ。

「意味わかんないねー。自由人だよねー、ダイってー。」

ガーネットも同意見らしい。
しかし自由人については、3人とも同じくらい自由人だ。

「世間話はここまで。目的地に到着する。準備をしろ。」

「はーい。」

それまで黙っていたクォーツが体制を立て直して、口を開いた。
ガーネットの軽い返事を合図に皆が出る準備をする。
遅れぬようにと、シェルも銃に手を掛けてすぐに走りだせる体制に直す。

「行くぞ。」

二台の扉が開かれて車内に眩い光が差し込む。

 ――ミッション・スタート――




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