Buon Compleanno.

□Lr.03
3ページ/3ページ




*聖都 中央ホール

 監視カメラはもうリチアを目標として追っていた。
それを知らん顔で無視して人の行き交うホール中央へと足を進めた。
人が足を止めることを決してしない場所で、リチアは足を止めた。
目の前に立つのは白の像。
世界を愛して、神に永遠の命を貰った女神の像だった。
ふわりとしているのであろう髪を下ろして布のような変わった服を着た女神。
その服装は天では絶対に見ないものばかり。
 おそらく、天とはかけ離れた場所、地。
汚れた人間の住む世界。
ヒトとはかけ離れた、おぞましい生活をしている人間の暮す地。
想像することさえ、困難だと言われるまで。
しかし、本当にそんな世界があるのだろうか、リチアはいつも不思議に思った。
汚れているとは、どういうことで。汚れていないとは、何なのか。
 首から掛けているネックレスの様なものも周りで見ることがない。
リチアはそんな珍しい物を身につける女神像を見るのが本当に好きだった。
聖都に来た時は必ずと云って良いほどここで立ち止まり、長いこと眺めるのだ。
自分の中にある沢山の知識を整理しながら。
どうして女神は永遠を望んだのか、と考えるのだ。
平和にする為に絶対に生きる意味はあったのだろうかなどと。
考えたところで神話のひとつなのだから意味が無いと分かっていても。どうしてか考えてしまうのだ。
女神のことを考えると、女神とリチアの世界だけが穏やかに進んでいるかのような錯覚に陥ってしまう。
周りが忙しなく働き、歩いているからであろう。
 ふっ、と何か小さな。それも変わった気配を一瞬感じた。
何事かとリチアは瞬時に振り向くが、そこは変わらずヒトビトが歩いていて。
感じたはずの気配はどこにも無くて、小首を傾けてしまう。
今の感覚はなんだったのだろう、と思いながらも母親との夕食の約束を思い出す。
約束を果たす為にも、早く研究塔に行きドクターに会って診察をしてもらわなければと。
少し億劫になりながらも足を研究塔へと向けて、進める。
女神像の方からひんやりとした涼しい風がリチアの背中を押した。
その風は、心の中の厭な気持ちさえも流してくれる様で、心地良かった。
 背後で小さな子供のくすりという笑い声が聞こえた気がした。
それでも今度は、前を歩くことを選んだ。
これは、決められた道でないと知っても。



2010/05/23

前へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ