Buon Compleanno.

□Lr.05
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*聖都 中央ホール

 息を切らす少女を横目に、リチアは辺りを見渡した。
なんとか聖都についたようだ。
東ブロックからのゲート右側から医療塔、北ブロック、研究塔、書庫塔、西ブロック、総務塔、都市開発塔、南ブロック、軍事塔へのゲートが見える。
今日はいつもよりも妙に軍事塔ゲートの所が込み合っているように見えた。
 リチアは聖都の中心を見つめる。
いつもと同じその場所にある女神像は今日も静かに佇んでいた。
見上げれば、半透明の大きな天窓があり、直射日光を遮っている。
窓の上、丸くどうやっているのか浮かんでいる球体。
すっと目を細めて仰ぎ見る。
 聖都の上、他の建物と遥かに上に位置する場所に浮く丸い球体、天府。
天の全てを動かす政治の拠点である。
それぞれの塔にひとつずつ天府へのゲートがあり、上級天使の称号を得た人々はそこから天府へと足を進める。
それはとても、遠い世界のようなもの。
 天府を見上げるのを止め、再び横の少女を見つめる。
少女は未だ息が上がっており胸に手をあてて落ち着かせようと大きく息を吸っている。

「……大丈夫か?」

「だ、イジョー…ぶ、だと、…おも……う…。」

そうは見えないが、と云おうと口を開けようとした時。
白い白衣を着た男を見つけた。
それはリチアに聖都に向かうようにと云った男だった。
研究塔のトップに立つ男――ドクターと呼ばれる男だ。
リチアが目を覚ました時からそばにいた者。
家族より身近に感じてしまう男は、リチアの主治医である。
隣にいる同じように白衣を着た男に話をかけていることからまだリチアには気付いていないのだろう。

「ねぇ。」

 はっと、すぐそばから声がして肩が俄かに揺れてしまう。
横を見れば息がやっと整った少女が微笑んでこちらを見つめていた。
そこで自分はこの少女の案内の元ここ聖都に来たことを思い出す。
恩のある者に対してとても失礼かもしれないが、完璧に一瞬の間忘れていた。

「……何。」

「あなた名前は?」

そういえば、と思う。
自分はこの少女の名を知らない。
少女も同じくリチアの名を知らない。
しかし、名を知ってどうなるのだろうか。
これから先、もしかしたら二度と会わないかもしれない相手。
同じくらいと歳のヒトと話すことが殆どないリチアは少々戸惑った。
それでも、恩のある者に名乗らないのも失礼だろう。

「……リチア。」

「あなたリチアって云うの?」

大きな瞳でぐっと強く見つめてくる瞳は淡いグリーン。

「私はシェル。シェル=コンシェ!」

ふわりと大きく笑い、右手を己の胸に付けて話す少女はシェルと名乗った。
それからリチアの左手を自分の左手で繋いで持ち上げた。

「?」

「私たち、今日から友達ね!」

「……。」

超展開だ、これは。
目の前で恐ろしい勢いで新たな本を開き中身を瞬間的に理解せざるおえないような状況だ。
難しい。
このシェルの突発的な言動にリチアの脳をフル回転してもついてゆくことができなかった。

「ん?どうかした?」

「……なんでもない…。」

呆けたまま微動だにせず、シェルをただただ見つめたままだったリチアはやっとのことで金縛りから解放されたかのようにびくりと動いた。
その動きに対して少々不審に思ったのかシェルは眉を寄せた。

「シェルー!!」

それから何かを言おうと口を開いたが、どこからともなく聞こえた声によって中断せざるおえない状況になった。
リチアにはとても好都合だ。
頭がついていっていない状況で会話するのはとても苦労することだ。
助かった気持ちでリチアはくんっ、とひとつ息をついてシェルに託した。

「呼ばれているぞ……。」

「あー、ごめん!待ち合わせてしてたんだった!」

本当に忘れていたように、目を開いてしまったと全身を使って表現していた。

「リチアも来る?」

それから、あっと思い出したように振り返ってリチアに笑む。
しかしリチアは研究塔ゲート前で待つ白衣の男二人を横目でチラリと見て溜息を吐く。
いまだにリチアには気がついていないようだが、そろそろ行ったほうがいいだろう。

「悪い、私も待ち合わせがあるから。」

「そっか。んじゃあまた後で会おうね!」

少し残念そうな顔をした後に、再び笑顔を向ける。
それから声がしたであろう軍事塔ゲートの方へと向かいながら思い切り手を振ってくる。
後ろを見ながら歩けば人とぶつかるだろう……、案の定ぶつかった。
しかし相手に頭を下げてから再度リチアに手を振ってきた。
これは厭な予感がした。
厭というほどでもないのだが。
振り返さなければ永遠に手を振られかねない。
リチアはふぅと息を吐き、左手をそっと持ち上げた。
シェルのように頭上高くではなく胸元ではあるが。
ふわりと手を振って見せた。
それを見たシェルは一瞬驚いたような顔をしたが再度満面の笑みを見せて大きく振り返してきた。
それからはきちんと前を向いて走り去っていった。
手を下して、ひとりそこに佇む。
何かホっとした様な不思議な感覚にリチアは小首をひねった。




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