小説

□陽だまりの記憶
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俺には記憶がない。


10歳のときに誘拐され、記憶を失った。
見つかったときにはもうそうなっていた。

さらに、外見は10歳でも中身は赤ん坊そのものだった。
しゃべることも歩くこともままならない。

両親も、幼馴染も、屋敷の使いたちも皆、俺をあわれみ悲しんだ。

自分でも、皆が俺を昔の俺とを比べてたことがわかった。
それぐらいの変わりようだったということなのだろう。


自分が独りな気がした。


いつだって皆俺のそばにいてくれた。
でも、皆の目は俺を見てなかった。
違う誰かを見てた。
ここは自分の場所なのに、他人の場所にいる感覚がした。


とてもじゃないけど耐えられなかった。

まだ物心がつかないときはまだしも、
自分というものがはっきりしてきたときはその事実に泣き叫びそうになった。


でも、俺はそのことで押しつぶされることはなかった。



1つだけあったんだ。

覚えていること。



そう、それは俺みたいな朱。
いや、でももっと綺麗で惹かれる紅だ。

そいつは、俺を見ていた。
過去の自分じゃなくて、「俺」を。


でもそいつがどこの誰とかはわからない。
今自分のそばにいない。

本当に記憶なのかもわからないぐらい
わずかにしか覚えてない。



それでも、そいつの存在があったから今までこれた。
自分を保てた。


会いたい。

ずっと屋敷に軟禁されている俺が外にでてそいつを探すなんてこと、
無理なのはわかってる。





それでも俺は、
あの紅に・・・・会いたい。
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