弐
□店の看板って、何の店かわかるネーミングがいい。
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「只今、戻りましたー!」
行きつけの店に頼んだ卓上花を買ってきたスーは、早速手頃な長さに切って水の入ったコップに飾った。
「6月はやっぱり、紫陽花ですよね。」
こじんまりした店では、あっという間に作業も終わる。
何やら騒がしい休憩室に、スーが顔を覗かせれば店長と料理長がいた。
「どうしたんですか?」
「阿伏兎が、俺とスーの仲を妬んでるんだ。」
「ちげぇっつってんだろうよ!?何、困った風に笑ってんだよ腹立つ!!」
「まあまあ、そろそろ開店時間ですし。」
「大体、俺よりスーが作った方が美味いだろ!」
「駄目。スーは俺専属の賄い係だから。」
「あの、二人とも…。」
「何で店の人間が、客より良いもん食ってんだよ!?」
「店長は偉いから。」
「アンタは、どこぞの独裁者か!残念だがな、普通店長は!客を大事にするんだよ!」
「…………。」
「余所は余所。うちはうち。…大体スーが厨房入ったら、誰が客の相手をするのさ?阿伏兎がやるの?
無理だね。客が逃げちゃうこと、必至だよ。」
「その相手させる客をボコッてんのは誰だ!!アンタがお冷や出しとかすりゃ―…!!」
「いつまで…っ言い争ってんだテメェらはァア!!」
終わらない言い争いに、スーがブチ切れる。傍にあった脚立を掴み、大きく振り上げた。
「うわっちょ、まて!脚立は駄目だ!話せばわか―っ!?」
室内に一際大きな物音が響く。静かになった休憩室から出て来たスーは、エプロンを外した。
そして店の玄関に向かうと、準備中の札から閉店の札へと変更する。
そして扉にセロハンテープで貼紙を貼りつけた。
【本日、臨時休業。】
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