弐
□使えないと、不便なモノって結構ある。
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ずーんと沈んでいるスーに目を向けた神威は、菓子を食べた手をぺろっと舐める。
黒く真っ直ぐな髪を梳かしたものの、手が使えないため髪は結えずに下ろしたまま。
それは、さらに陰気を漂わせていた。
「スー…もしかして、落ち込んでいるのかい?」
「ああ、今気付きました?」
恨ましげに見るスーに反して、神威は相変わらず笑顔のままだ。
「そうかい。なるほど、それで元気が無かったんだね。」
「元気がない時点で、何かあると気付くもんですがね。」
「腕が使えないと不便だろうね。」
「神威…。」
「だって、片手じゃ腕立て伏せできても筋力のバランスが悪くなっちゃうし。動きが悪くなるしさ。
特にご飯食べる時が大変だよ。俺両手使えなきゃ、食べるスピードが追い付かない。
すごいストレスを感じながら、食べることになっちゃうよ。」
神威らしい内容に、スーは幾分か気持ちが楽になる。
自分を励まそうとしてくれているかはともかく、神威なりに理解してくれたようだ。
「うん…ありがとう、貴方なりに理解してくれて。」
「髪、結ってあげる。前がよく見えないから、暗い気持ちになっちゃうんだよ。」
「きょ、恐縮です。」
「どうしていきなり、堅い返事をするんだい?」
神威は笑いながら、スーの下ろした髪に櫛を通した。
髪を纏めて、口にくわえたリボンで結ぶ。しかし、巻いた団子はすぐに崩れてしまった。
「うわっ難しい。いつも、どうなってるの?あれ。」
「ええっと…こう、くるっとしてしゅ!って感じです。」
「わからないよ。」
「髪の量も多いですから、実際には難しいんですよ。
あんまり突っ込まないでください。」
「じゃあ、ポニーテールでいい?」
「はい。」