□使えないと、不便なモノって結構ある。
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ずーんと沈んでいるスーに目を向けた神威は、菓子を食べた手をぺろっと舐める。
黒く真っ直ぐな髪を梳かしたものの、手が使えないため髪は結えずに下ろしたまま。
それは、さらに陰気を漂わせていた。


「スー…もしかして、落ち込んでいるのかい?」


「ああ、今気付きました?」


恨ましげに見るスーに反して、神威は相変わらず笑顔のままだ。


「そうかい。なるほど、それで元気が無かったんだね。」


「元気がない時点で、何かあると気付くもんですがね。」


「腕が使えないと不便だろうね。」


「神威…。」


「だって、片手じゃ腕立て伏せできても筋力のバランスが悪くなっちゃうし。動きが悪くなるしさ。
特にご飯食べる時が大変だよ。俺両手使えなきゃ、食べるスピードが追い付かない。
すごいストレスを感じながら、食べることになっちゃうよ。」


神威らしい内容に、スーは幾分か気持ちが楽になる。
自分を励まそうとしてくれているかはともかく、神威なりに理解してくれたようだ。


「うん…ありがとう、貴方なりに理解してくれて。」


「髪、結ってあげる。前がよく見えないから、暗い気持ちになっちゃうんだよ。」


「きょ、恐縮です。」


「どうしていきなり、堅い返事をするんだい?」


神威は笑いながら、スーの下ろした髪に櫛を通した。
髪を纏めて、口にくわえたリボンで結ぶ。しかし、巻いた団子はすぐに崩れてしまった。


「うわっ難しい。いつも、どうなってるの?あれ。」


「ええっと…こう、くるっとしてしゅ!って感じです。」


「わからないよ。」


「髪の量も多いですから、実際には難しいんですよ。
あんまり突っ込まないでください。」


「じゃあ、ポニーテールでいい?」


「はい。」



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