弐
□悪夢は人に話すと楽になるけど、相手を間違えると笑い話にされるので要注意。
1ページ/4ページ
比較的穏やかな気候に恵まれたその場所は、様々な薬草と相性が良かった。
草木が生い茂る豊かな地で、薬草を干す作業をする小さな体があった。
その幼い娘に、長い黒髪を靡かせた母親が手招きをする。
「スーシュアルダ、お勉強の時間よ。」
「はーい!きょうは、なんのおべんきょー?」
切りのいいところで作業を止めたスーは、母親の元へと駆け寄った。
スーの手を繋ぎ、家の中に入った母親は暖かな微笑みを向ける。
「うふふ、解剖よ。」
「…"かいぼう"って、あの"かいぼう"?」
暖かな微笑みに流されそうになったが、解剖という言葉にスーは表情を固まらせた。
「ええ。パパはまだ早いって言うけれど、ママは貴女くらいの頃にはお勉強したのよ。
きっとすぐ覚えられるわ。
体の造りを蛙さんの体を使って、お勉強しましょうね。」
「かえるさん?」
籠から引き抜いた母親の手には、必死で逃げようとする蛙の姿。
もう片方の手には、解剖用のメスがきらめいている。
「ま、ままー…?かえるさんを、どうするの…?」
幼い頃から周囲から抜きん出ていたスーは、これから起こるであろう出来事に顔を青くしている。
制止を訴えるように首を左右に振ったが、母親は眩しい笑顔で答えた。
「こうするの。」
おもむろにカエルを仰向けにした母親は、穏やかに口角を上げたまま解剖を始める。
その様子は慣れたようにテキパキと、まるで料理をしているかのようだ。
はたしてこの母親は、蛙の内蔵がバラバラにされている最中。鼻歌混じりであるのが、さらに恐怖を煽っていることに気付いているのだろうか。
あまりのグロテスクな光景に、スーは目を逸らしてしまう。
その事に気付いた母親は、蛙の体液塗れの手でスーの小さな肩に触れた。
「あらあら、駄目よ。ちゃーんと見てなきゃ。
心臓が動いているのを、見逃しちゃうでしょ?」
「※%#&£☆!!!?」
「いい?これが心臓よ。それからこれが…ああ、そうそう。
この蛙さん。今日の夕飯にしましょうね。」
「ひぇえええ!!」
「あらあら、泣いちゃって。どうしたの?食用だし、唐揚げにすると美味しいのよー?」