□勘違いは早く訂正しないと、どんどん言いづらくなる。
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鬼兵隊の赤い弾丸こと来島また子は、揺れる黒髪の後ろ姿を追った。
気配を消して、一定の距離を保つ。相手が振り返る前に壁に隠れるの繰り返し。
来島が今尾行しているのは、春雨第七師団のスーシュアルダだ。

事の発端は晋助の一言。夜に晋助の部屋に呼び出された来島は、口から心臓から飛び出しそうな程緊張していた。
痙攣する手を握り締め、扉をノックする。


"しっ晋助様!来島です!"


"…入れ。"


返事の後に室内に入れば、高杉は煙管を吹かせながら目を向けた。
来島はその色気に、鼻血を噴き出してしまいそうになる。意識が遠い所に行きそうになるが、高杉の声に引き戻された。


"そのテーブルの上だ。"


"はっはいッス!"


目を向ければ、上質な木箱。中には簪でも入っていそうな雰囲気である。


"こ、これは…!?"


"気になるなら開けてみな。"


"し、失礼しますッス。"


そっと開けてみれば、予想通り簪だった。鼈甲の簪には鮮やかにも繊細に描かれた花や帯。
真珠もあしらわれたその簪は、まさに溜め息が出るような美しい一品だった。
熟練の職人の作品であることも、さぞかし値が張ることも容易に想像出来る。


"しっ晋助様!?こっここの簪は…!?"


"スーシュアルダに渡せ。"


"!?スーシュアルダって…ど、毒竜姫のことですか!?"


"ああ、ちょいと頼まれてな。"


昨夜の会話を思い出した来島は、ギリギリと歯を食いしばった。


(あんの小娘…っ晋助様に物をせがむなんてェエ!許せないッス!!)



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