弐
□博打は程々に。
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暗く寂れた牢獄の中、女の笑い声が響く。
「ウフフ。ちょうか…はんか。ちょうか…はんかァ。」
女は牢の中で、伏せた椀をひたすら回し続けた。椀の中では、コロコロと何かがぶつかる音がしている。
その牢に近付く人影があった。
「じゃあ…丁。」
「ふふふ〜はんじゃ…。」
男の賭けに女が開いた椀の中には、錆びたボルトと六角ナット。どこをどう見て半と言っているのか。
「ありゃりゃ。負けちった。」
「神威さん…負けたも何も、どこが半なんです?博打のルールは知りませんが、さすがにこれは…」
牢の前にはしゃがんだ神威と膝に手をついて屈んだスー。その後ろには阿伏兎がいた。
神威の隣に立った阿伏兎は、牢の中で笑い続ける狂女に同情の眼差しを向ける。
「…嘆かわしいねェ。春雨第四師団団長といえば、かつては宇宙(やみ)に咲く一輪の花なんぞと呼ばれていたもんだが…
派閥争いで居場所を失い、組織の金持ち逃げしてどこに姿消しちまったのかと思ってたら。
まさかこんな姿でご帰還たぁね。」
「ホントだね。まさか阿伏兎の好みがこういう女狐だったなんて。」
「え、そうなんですか。」
「お前さんだってわかんだろ?世の中なんでも手の平サイズ。コンパクト時代になっちまったがねェ。
女だけは手に持て余すくらいが丁度いいんだ。」
「DS位?」
「んにゃ、メガドライブ位だ。」
「成程。道理で今迄探し回っても見つからないワケだ。なんせ阿伏兎お気に入りのメガドライブだもんね〜。」
含んだような神威の言葉に、阿伏兎はピクリと反応した。
「でも残念ながら、地球(あっち)にも彼女の居場所はなかったみたいだよ。
博打が過ぎたね…彼女もお前も…」
「博打は程ほどにした方がいいですよ。」
腰を上げて自分の前を通りすぎる二人に、阿伏兎は顔を引きつらせる。
「……オイ、妙な勘ぐりは止めろ。どっかのバカ団長じゃねーんだ。仕事にそんな私情もち込んでたまるか。」
「「ハイハイ。」」
「そもそもコイツはツラも名も変えて地球に逃げてたんだぞ。んなモンわかるワケ…」
「「ハイハイ。」」
「声揃えてんじゃねーよ!仲良しか!」