□固定観念って結構厄介。
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温泉の星【硫黄愁】。停泊させた船から、団員がぞろぞろと下りてくる。歩き出して数分すると、宿泊予定の宿に到着した。
地球の旅館をモチーフにしているらしく、落ち着いた雰囲気である。
開放感のある空気の中に溶け込む温泉の香り。先頭に立つ神威は、手を組んで大きく伸びをした。


「んーっなかなかいい場所だね。」


「海賊に慰安旅行たぁ、たまげるわ。」


「元老に言ってみるもんですね。"たまには息抜きしたいです。"って。」


「そのかわり、無茶な仕事を短期間で終わらせたんだ。今回スーのご褒美にあやかれたんだから、感謝しねぇとな。」


「いえいえ、あやかるなど。阿伏兎さんも普段、忙しく働かれているんですから。」


修学旅行の学生にヤクザを合わせたようにはしゃぐ団員に、困ったように笑うスーは声を掛ける。


「みなさーん、今回は皆さんの働きを労った元老からのお気持ちです。
貸し切りですが、従業員さんに迷惑をかけないようにしてください。」


しかしスーの声は届かず、賑やかなまま。咳ばらいをしたスーは笑顔を浮かべたまま続けた。


「もし、何かあれば…口に入れる物にご注意を。」


「「「………。」」」


その瞬間。ざわついていた団員が、まるで通夜のように静かになった。
これで良し。と、満足げに笑ったスーは前へと向き直る。


「…と、まあ軽く釘も刺したところで部屋に行きましょうか。」


「ああ。」


部屋割りは至ってシンプルだ。ヒラ団員はグループ分けして大部屋。団長と幹部は個室と、まあありきたりなものである。


「それが別室の理由かい?」


「旅行といっても、慰安旅行です。仕事の延長線ですよ。」


「周知の仲じゃないか。今更だよ。」


「神威さんは一応団長なんですから。団長自ら規律を乱しては、団員に示しがつきません。」


「ちぇ。」



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