月日、空を飾る
□何事も適度が一番【前編】
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「総悟さん。水羊羹を作ったのですが、いかがですか?」
「おう、いただきまさァ。」
「お部屋にお持ちしますので、少しお待ちくださいな。」
総悟が自室に戻って少しすると、お盆にお茶と水羊羹を乗せた翡翠がやって来た。
小豆と抹茶の二切れを、透明なガラスの皿に乗せた水羊羹は涼しげだ。
しかし、用意されたのは一人前だけである。総悟は翡翠へと目を向けた。
「翡翠は食べねェのか?」
「はい。」
「…………。」
翡翠が湯呑みを総悟の前に出せど、手をつける気配はない。
「どうかなさいましたの?」
「…もうちょい、俺に甘えてくれねェか。」
「え?」
「今が嫌ってわけじゃねーんだが、仕事のない時くらい…俺達の関係を知らない奴が見たら、恋人には見えねェぜ?」
「も、申し訳ありません。ですが、私は…」
「謝ってほしいんじゃなくて、甘えてほしいんでィ。」
その日、出勤していたお蘭の休憩中に翡翠は先程の出来事を相談する。
一部始終を聞いたお蘭は、翡翠お手製の水羊羹を頬張りながら頷いた。
「沖田隊長がねぇ〜。でも、確かに翡翠ちゃんはかしこまりすぎかな!」
口を動かしながら、菓子楊枝で円を描くように回すお蘭に翡翠は困った表情をする。
「その、今までそれが普通だったもので。それに…」
「それに?」
「お茶を飲むよりも、総悟さんを見て…いたくて…。
美味しいと、笑ってくださるお顔が本当に素敵なんです。」
「あららぁ真っ赤になっちゃって。でも休みの時くらいはさ、甘えたらいいじゃないっせっかく住み込みなんだし!」
最近仲間入りした虎の虎子は、翡翠の膝にべったり。その様子を見たお蘭は笑う。
「虎ちゃんみたいに、べったりしたらいいじゃない。積極的にガバーッといっちゃいなよ♪」
「積極的、に…。」
それは、あの事件が起こる数日前の事だった。