月日、空を飾る

□悪戯は程々に。
1ページ/16ページ



総悟が悪戯好きなのは、もはや周知の事実。恋人となって暫く経てば、翡翠も標的になったのであった。

夕食の時間、食堂の扉が開くと血まみれの総悟が現れる。ざわつく食堂に気付いた翡翠は、総悟の姿に大きく目を開いて悲鳴を上げた。


「そ、総悟さ…っ!?」


「くっ…翡翠…。」


「っ総悟さん!大丈夫ですか!?」


ぐらりと倒れた総悟に、翡翠は包丁を放り出して駆け寄る。
息絶え絶えな様子に、翡翠は総悟の体を支えた。


「お気を確かに!一体何があったのです!?」


「へへ、しくじっちまった…。」


「どなたかっお医者様を!早く!」


翡翠の悲鳴に、隊士達も慌てて食堂を飛び出す。嗚咽を繰り返す翡翠に、総悟は苦しげな呼吸で口を動かした。


「さ、最期に…頼みがあらァ…。」


「最期だなんておっしゃらないでくださいまし!」


「翡翠から、キスしてくれねェか…?」


痛みに耐えながら、力無く笑う総悟に翡翠の瞳が涙で滲む。


「私に、出来ることなら…っ。」


翡翠が目を閉じて、顔を寄せれば鼻に漂う匂い。どこで嗅いだ匂いではなかったろうか。

ああそういえば、昼食の時に使ったような。確か昼食は、オムライスだった。


「…ケチャップ、の香り…?」


「ちぇ、バレちまったか。」


ペロッと舌を出した総悟に、悪びれた様子はない。涙をぼたぼたと流しながら、翡翠は大きく右手を振り上げた。


「っ馬鹿ぁああ!!」


ちなみに翡翠が総悟のこの手に悪戯に引っ掛かったのは、これで計5回目である。



次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ