月日、空を飾る
□悪戯は程々に。
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総悟が悪戯好きなのは、もはや周知の事実。恋人となって暫く経てば、翡翠も標的になったのであった。
夕食の時間、食堂の扉が開くと血まみれの総悟が現れる。ざわつく食堂に気付いた翡翠は、総悟の姿に大きく目を開いて悲鳴を上げた。
「そ、総悟さ…っ!?」
「くっ…翡翠…。」
「っ総悟さん!大丈夫ですか!?」
ぐらりと倒れた総悟に、翡翠は包丁を放り出して駆け寄る。
息絶え絶えな様子に、翡翠は総悟の体を支えた。
「お気を確かに!一体何があったのです!?」
「へへ、しくじっちまった…。」
「どなたかっお医者様を!早く!」
翡翠の悲鳴に、隊士達も慌てて食堂を飛び出す。嗚咽を繰り返す翡翠に、総悟は苦しげな呼吸で口を動かした。
「さ、最期に…頼みがあらァ…。」
「最期だなんておっしゃらないでくださいまし!」
「翡翠から、キスしてくれねェか…?」
痛みに耐えながら、力無く笑う総悟に翡翠の瞳が涙で滲む。
「私に、出来ることなら…っ。」
翡翠が目を閉じて、顔を寄せれば鼻に漂う匂い。どこで嗅いだ匂いではなかったろうか。
ああそういえば、昼食の時に使ったような。確か昼食は、オムライスだった。
「…ケチャップ、の香り…?」
「ちぇ、バレちまったか。」
ペロッと舌を出した総悟に、悪びれた様子はない。涙をぼたぼたと流しながら、翡翠は大きく右手を振り上げた。
「っ馬鹿ぁああ!!」
ちなみに翡翠が総悟のこの手に悪戯に引っ掛かったのは、これで計5回目である。