弐
□物でダメなら内容にこだわれ!
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「スー、デートしよう。」
薬室で乾燥させた薬草を保管していたスーは、突然の神威の言葉に目を丸くする。
神威の発言を理解出来なかったのか、返事までに少しの時間を要した。
「…?ああ、すいません。私、カラオケで歌ったことないんです。」
「デュエットじゃあないよ。」
「賛成派ですか?反対派ですか?」
「何に対して?ていうか、ディベートでもないから。」
「敏感肌?」
「デリケートでもないの。デートだよデート。」
「デート…。それって確か、男女が海辺で追いかけっこをするアレですか?」
デートというワードでスーの頭に浮かんだのは、海辺でつかず離れずの距離で追いかけっこをする男女の図。
さすがデートをした事のない引きこもりといったところか、イメージがベタ過ぎる。
「海辺で追いかけっこ?それって、何か意味があるの?」
神威も神威でそれがベタなイメージだと理解出来ないらしく、真面目に聞き返した。
現時点で、ごく一般的なデートが出来る希望は皆無である。
「さあ…?もしかしたら足場の悪い砂浜を走ることで、脚力を鍛えているのかもしれませんね。」
「なるほど。確かに良い鍛練になるかもしれないね。でも俺はわざわざ太陽なんて浴びたくないし、遠慮したいかな。」
「では、どちらへ?」
「それは後のお楽しみだよ。とりあえず、おめかししてね?で、えーと…お昼の1時に、家康像の前で待ち合わせだよ。」
「"イエヤスゾウ"?どこですか?そこ。」
「はい、地図。」
見て来いと言わんばかりに、スーは神威から地図を無造作に手渡された。
何故こうして向かい合っている相手と、別の場所で待ち合わせをする必要があるのか。
かえって効率が悪いと感じたスーは、家康像の場所に赤い丸でチェックされた地図から神威へと目を向ける。
「あの、一緒に出かけた方がいいんじゃないですか?わざわざ待ち合わせなんてしなくても…。」
「いいから、難しいこと言わないで。慣れてないから、応用が効かないんだよ。」
「す、すいませー…ん。」
「じゃ、後でね。」
神威が出て行き、少しの放心の後にスーは洋服ダンスを開いた。
「おめかし…おめかし…って、あれ?何を着ればいいんだろう?」