弐
□固定観念って結構厄介。
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「案外、あっさり引き下がってくれた…。」
スーは受け取った鍵の部屋に着くと、荷物を下ろす。ホッと一息つくと、畳の上にごろごろと寝転がった。
「はふー…疲れたぁ。」
根詰めて、やってきた仕事の疲れが出たらしい。暖かい湯舟に、ゆっくりと浸かりたい誘惑が誘ってきた。
「温泉に入ろ…。」
スーがお風呂セットを持って入浴場に行けば、同じように入浴の準備をした神威と鉢合わせする。
「あ、スーもお風呂?」
「はい。神威さんも、みたいですね。ここの温泉は効能もさることながら、眺めも最高らしいですよ。」
「それは楽しみだね。じゃあ、また後で。」
「はい。」
脱衣所で衣服を脱いだスーが浴場に行けば、岩など情緒溢れる温泉の景色に感嘆の声を上げた。
「うわぁ…きれーい。」
スーは早速、その長い黒髪を洗う。お湯でシャンプーの泡を流した後、リボンで纏めれば引き戸の音がした。
たいして気にしなかったが、誰かと振り返れば温泉に浸かる背中が見える。
やはり他の誰かが入って来たのだと、視線を戻して顔を洗った。
しかし、ふと体を洗うタオルで石鹸を泡立てている手が止まる。
(…今の、誰だったっけ?とてもよーく、知っている人だったような。)
そう感じたスーは、ゆっくりともう一度湯舟へと振り返った。
そして勢い良く顔を前に戻して、湯桶を頭に被る。
(か、神威さんンンン!?)