SS

□みんなで一緒に
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 体がバランスを崩し滑って思わず声をあげると小さな手が体を支えてくれた。
「大丈夫か?」
「へへ、わりーなタイキ」
 礼を言うと白い息を吐きながらタイキはどういたしまして、と笑う。
「うわっ」
 盛大に転んだのはタギルでガムドラモンが多少呆れながら心配して寄っているのが見えた。
 人の少ない、というより人が来ないような場所なら一緒にスケートが出来るのではないか、と。タギルが言い出したのはつい数時間前。みんなで頭を捻った結果森の中の湖で出来た凍りなら問題ないのではないかという結論が出た。
 だがタイキやユウ、シャウトモンとダメモン、ガムドラモンは滑れるのだが一番滑れなかったのは言い出しっぺのタギルだ。先程からガムドラモンが見ていられなかったのかいろいろと口出しをしている。その光景はタイキにとっては微笑ましいものだがタギルは馬鹿にされたように感じたのか怒っているようだ。
「タギルは練習すれば滑れるようになりそうなんだけどなぁ」
「なんで言い出したタギルが滑れないんだか……」
「ダメダメネ」
 タギルは熱くなると止まらないタイプだ。ガムドラモンに言われてむきになり始めている。
「そこまで言うなら、絶対滑れるようになってやる!」
 立ち上がって気持ちをたぎらせるタギルを遠目に見ながら、タイキは苦笑した。
「あーやってるの見るとシャウトモンがガムドラモンをほっとけないのとおんなじ感じなんだよなぁ」
「だよなぁ」
 のんびりとタイキとシャウトモンが話しているとユウが拗ねたように割り込む。
「タイキさん、勝負しませんか?」
「え?」
 挑戦的にユウはにこりと微笑むとタイキの手を引っ張った。
「うわっ」
 急に引っ張られたことに驚いてタイキがバランスを崩す。それにも関わらずユウは飄々と優雅に滑った。なんとか体制を整えつつタイキも凍りの張った湖の真ん中へと滑る。ユウの手を握る力は案外強くて戸惑った。
「タイキさん」
 以前の戦いで見せたような自信に溢れた笑みだが、あのときとはやはり変わっている。ユウは楽しそうに湖の端を指を指し、
「どちらが早く滑れるか競争だ!」
 もちろん、断る理由などないタイキもその気になってにっと笑ってみせた。相手は弟のように感じていたユウだ。手加減するつもりはないらしい。シャウトモンとダメモンはそれぞれのパートナーを見上げているしかなかったが勝負事に発展すればお互い応援しようと張り切り始める。
 一方、滑れるようになることに一直線だったタギルは置いてけぼりで、ガムドラモンに呆れられてばかりだった。
「タギルもタイキやユウみたいに滑れるようになるのかぁ?」
「るっせぇー!」


 日差しが傾いてそろそろ帰らなければならないという頃には全員くたくたで、ロコモンに乗車してからすぐに椅子へと雪崩落ちるように座る。
「結局、タギルは滑れるようにならなかったな」
 苦笑しながらタイキが言うと、タギルは拗ねたらしく不機嫌そうに「いつか絶対タイキさんを追い越してみせるぜ!」と答えた。ダメモンを抱えて細かい凍りの粒を払っていたユウまでもが呆れ顔になってやれやれと息をつく。
「タギルにタイキさんを越えられるとは思えないけど」
「なんだとー!?」
「まぁまぁ二人とも」
 タイキがユウの言葉にむきになるタギルを宥める。
「静かだと思ったら、ガムドラモンのやつ寝てんのか」
 シャウトモンがタギルの隣で寝ているガムドラモンをつついていた。ガムドラモンはタギルに寄りかかりすっかり眠り込んでいるようだ。見ていたユウも、自分の膝の上のダメモンが寝息を発てていることに気づいた。
「ダメモン、寝ちゃったの?」
「なんか、オレも眠くなってきた……」
 さらにその様子を見ていたタギルまでもが欠伸をしている始末。
「ま、帰るまで寝るっていうのもいいかもな」
 くすり、と微笑んでタイキは窓の外を見た。夕日が徐々に海へと沈んでいく。とん、と体に体重がかかって横を見るとシャウトモンも寝てしまっていた。それどころかタイキ以外全員、夢の中へと旅立ってしまっている。
「ね、寝るのはや……。オレまで眠くなってきた」
 ひとつ、欠伸をしてはタイキもうとうとと眠りに誘われてしまう。
 今日はハントもしなかったが、それでもいいだろう。





2012.3/3

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