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□視線の先は、もどかしい感情
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気持ちだけでも託す。それで世界を、彼を救えればいい。今の自分には何もできないけれど、きっとタギルと、ガムドラモンならできるはずだ。
痛みに視界がぶれるが空に揺れるいくつもの影を見上げる。後輩が心配だという気持ちと、彼をほっとけないという気持ち。何もできない今の現状に心が痛む。
「タイキ」
無機質だけれどたしかに、あったかい手。顔を横に向ければ心配そうにこちらを見ているベルセブモンがいた。体中に暖かさを感じるのは彼が自分を抱きしめているからだ。
大丈夫だよ、と言うようにタイキは微笑んだが痛みには勝てずすぐにそれは消える。顔を歪めるベルセブモンにギュッと心臓を握り潰されるようだった。
「……ベルセブモン」
声を絞り出す。ベルセブモンは何も言わずこちらを見た。それは心配で、何も出来ない自分という存在を悔いているような表情で、あの日の二人を思い出すような瞳でもあった。
「大切な人が出来て、よかったな」
笑えたかどうかは判らない。体の痛みで、心の痛みで笑えなかったのかすら。
「……子供がわかったような口を聞くな」
思った以上に優しく頭を撫でられたのに少しだけ泣きそうになりながらタイキは再び空を見上げる。
「なぁ、ベルセブモン」
「……なんだ」
「もう無茶はするなよ」
今度こそ微笑んで、タイキは穏やかに言った。
たしかに、彼女は大切だ。
けれど自分の中ではかつての仲間たちも大切で、今ここに抱きしめている彼はもっと、別の意味で大切だった。
一度死に、転生し、別行動ではあったがそこに仲間たちがいて、――彼がいた。
今腕の中に抱えている存在がどんなに愛おしいことか。
「それはお互い様だ」
彼は今自分の腕の中で生きている。世界の命運を握る戦いを、もどかしい思いをしながらも見守るその瞳を見ながらこの温もりをベルセブモンは噛み締めた。
2012.3/18
ベルセブモンはあれ見てヒヤッとしたんじゃないかなと