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□鏡の中の幻影
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何故、なんだ。
「……っ」
涙が溢れ、零れる。
「僕はどうして勝てない……?」
喉がヒューヒューと鳴り、煩い。耳障りだ。
「どうして――っ」
悔しさのあまり八つ当たりをしようと顔を上げ、シャドーカービィは目の前にある光景に息を呑んだ。
「ダ、ダークメタナイト!」
目の前には、無茶苦茶に叩き潰された仲間、ダークメタナイトがいた。
シャドーカービィは彼に急ぎ駆け寄る。
「どうしたの!? 酷い、誰が――!」
途中で言葉を切り、シャドーカービィは怒りに体を震わせた。
言わなくても判る。
これは、カービィ達にやられたんだ。
ダークメタナイトはシャドーカービィの声に目を開けた。身体中痛みが酷く、上手く声がでないようだ。
「……――っ」
「待って、ほら、マキシムトマトだよ!」
無理矢理ダークメタナイトにマキシムトマトを食べさせ、シャドーカービィは彼を抱き起こす。
「お前も、酷い怪我をしているではないか」
ダークメタナイトは声を振り絞り、シャドーカービィの手を取った。
「まだマキシムトマトはあるから大丈夫だよ」
ダークメタナイトが安心出来るようにシャドーカービィは微笑むと、彼を抱きしめる。
「――私は行かなくては」
ダークメタナイトは、シャドーカービィの腕を振り切り、立ち上がった。シャドーカービィは驚き、制止の言葉を掛ける。
「無茶だよ、ダーク!」
その言葉に、彼は笑った。
「私は、気に入った」
「はぁ?」
ダークメタナイトの言ったことが解らず、シャドーカービィは間抜けた声を出す。
「私は、あいつらが気に入った」
ふっと笑うと、ダークメタナイトは声高らかに言った。そして、シャドーカービィを振り返り
「お前は自分の思いに気付いてないな」
と、言う。
「どういう意味なの」
シャドーカービィも立ち上がりダークメタナイトを正面から見つめた。
「お前は誰かに従うだけでは止まらない、そういう奴だ」
それだけ言って、メタナイトは一瞬で姿を消す。シャドーカービィは、言葉の意味が解らず、立ち尽くした。
最終決戦が、始まろうとしている。
+++
「ダーク……」
あれから、シャドーカービィは考えていた。
自らの気持ちが、何処にあるのか。自分が、どう動けばいいのかを。
「カービィなんて、あんな奴」
呟き、空を見上げる。
だが心の何処かでは、彼らに違う感情があるのだと、感づいていた。
では、それはなんだ?
あいつらは、沢山の者を傷付けてきた。自分はそれが憎い。それを許すことは出来ない。
「ダーク」
ただ一人の仲間の愛称を呼び、流れ行く雲を眺めた。
『待って、シャドー!』
ふと、あの声が蘇る。
「なんで、あいつの声が! 」
ふるふると体を横に振り、シャドーカービィはあの存在を忘れようとした。
それでも、彼の存在はうっとおしい程に纏わり付く。
「なんで、なんで! 」
叫び、シャドーカービィは忘れたいがために走りだした。風のように走り抜け、たどり着いた場所は。
「ディメンションミラー……」
シャドーカービィは、そっと鏡に触れた。鏡の向こう側では、カービィと自分を作り出したダークマインドが戦っている。
「ダークは、もう……?」
上がった息を整え、じっと鏡の向こう側を見つめる。
戦うカービィ達を見る度に、シャドーカービィには妙な感情が湧いていた。
「僕は……」
僕も、どれ程の者達を傷付けてきたのだろうか。
どれ程の痛みを、彼らに与えてきたのだろう。
「……――僕は」
こんな悲しみを作ってはいけない。互いを傷付ける、支配される世界なんて、いらない。
「戦わなくちゃ」
みんなに、辛い思いをさせてはいけない。
大きく息を吸い込み、シャドーカービィは鏡の向こうを睨みつける。
――そして、シャドーカービィは鏡へ飛び込んだ。
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さぁ、君はどうする?
「なんだ、これは!」
「逆さまになってる?!」
唸る大地、光。一瞬で地面が逆さまになり、動くことがままならなくなる。
「みんな、落ち着いて!」
カービィは声を張り上げたがその間にダークマインドが巨大なビームを放っていた。
「うわぁぁぁぁ!」
悲鳴が、こだまする。ダークマインドの不気味な瞳が、こちらを見ている。
「黄色カービィ!」
黄色カービィがビームに焼かれ、倒れた。
「くそ、黄色!」
赤カービィがパラソルでダークマインドの瞳を貫く。少しは怯んだが、ダークマインドはすぐにカービィ達を見下した。あまり喰らってはいない。
体の周りに複数の鏡を回し、ダークマインドはカービィ達に体当たりを仕掛けた。
「うあぁ! 」
緑カービィがまともに喰らい、倒れる。
「はぁっはぁっ」
残るカービィと赤カービィも、息が上がっていた。
次にダークマインドは鏡にレーザーを反射する。二人は何とか避けるが、ダークマインドの無機質な瞳に恐怖を抱いた。
(なんて、不気味な……! )
恐怖に身体が強張り、動きにくくなる。