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□鏡の中の幻影
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「行っちゃった……」
カービィは呆然と呟いた。
炎に氷が溶かされて、氷水が足元に流れていく。
「カービィ」
緑カービィが慰めるようにカービィの体に手を置いた。緑カービィを振り向くと、カービィは困ったように笑う。
「言いたいことがあったんだ」
寂しげにカービィは言う。
「でも、今は鏡の破片の方が先だよ」
赤カービィの言葉にカービィは頷いた。分かってはいるのだ。
「……行こう」
静かに、カービィは言った。
「ボクの名はウィズ!」
シルクハットから雲が出て、雷を落とす。
ウィズは、カービィに向かって車を出した。
「鏡の破片は渡さない!」
「――ハァハァッ」
荒い息遣いが部屋に響く。
カービィはウィズを見下ろし、睨みつけた。
「君の負けだ。鏡の破片を渡してくれない?」
シルクハットも、身体も、ウィズはボロボロだった。
「くっ」
負けた。
ウィズはカービィの方を向けない。いらついたのかカービィはウィズを強く踏み潰した。
「――……!」
声にならなかった悲鳴が、空気を震わせる。
「渡せば、君は助かるよ」
冷たい声で言い、にっこりと笑い、踏み付ける力を強くしていく。ウィズは悲鳴をあげることすら出来ず、苦痛に喘いだ。
「さぁ、鏡の破片をちょうだい」
水色の瞳が、光った。
鏡の破片がディメンションミラーに戻っていく。
赤カービィがカービィを覗き込んだ。
「あそこまでしなくてよかったんじゃない?」
眉を潜め、怒りに濃い青の瞳が揺れている。
「誰の事?」
のんびりと応えるカービィに、赤カービィは担架を切った。
「ウィズだよ!」
声を荒げる赤カービィに対し、カービィは冷たい瞳で彼を見た。水色の瞳は光を潜め、全てを拒絶しているようだった。
「赤、落ち着いて」
緑カービィが赤カービィの背中を撫でる。その温もりに赤カービィも少し、落ち着いた。
「どうしてあんな酷いことを」
怒りに声を震わせ、カービィを真っ正面から睨む。
「確かめたかったんだよ」
抑揚を欠いた口調で、カービィは言った。その言葉に赤カービィは虚をつかれる。
「確か、める?」
カービィはディメンションミラーを見つめ、微笑した。緑カービィも、傍で見守っていた黄色カービィも、カービィの意思がわからない。
「僕が僕であって、僕でないということを」
強く、そして決意に満ちた瞳は、鏡の"向こう側"を睨む。
「どういう、意味なの?」
緑カービィが、問う。
「僕らは、一人の人物から生まれた分身だよね」
カービィは振り返り、三人を見渡した。三人は頷き、カービィを見つめる。
「だけど、僕らが一人一人違う感情を持っている」
カービィの言葉に、三人はそれぞれの顔を見合わせた。
「確かに、同じなんだけど、違うんだよ。それを確かめたかったんだ」
カービィが笑って、俯く。
赤カービィが自分の行為に怒った、怒ってくれたことで、わかった。
「きっとシャドーカービィも、ちゃんと僕らと違う感情を持っているんだな」
カービィは嬉しそうに笑い、「けれど」、と言葉を続けた。
「同じだからこそ、違う感情を持つなら……」
今の、君の感情は、何処にあるのだろう――。
そう考えた。