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□星屑へと伸ばす手
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空に手を伸ばせば手が届くかな、なんて思ったけれど。ボクの短い手じゃ届かない。飛ぶことは出来るけど、それだって空には程遠いんだよ。
「理不尽だよね、なんであんなに空って遠いんだろう?」
「だからって八つ当たりはやめてほしいッス」
ごろごろと転がってワドルディが言った。彼が転がっているのは他でもなく、カービィに軽く蹴られたから。もちろん加減はしてあったからそんなに痛くは無かった。だけども、八つ当たりはひどいッス。力なく呟く。
「あーあ、宇宙には行ったことあるけど、空ってどうやって存在してるんだろう。空気で出来てるのは間違いないよね、うんそれと太陽と月と」
「そんなこと言ったって、埒が明かないんじゃないんスカ?誰かに教えてもらったらどうなの」
「うーん、だめだよ」
カービィは眉根を寄せて言った。
「自分の身体で知りたいの!」
また変なことを言い出す人だな、この風のような人は。
ワドルディは突っ込む余力もなく、仰向けになって空を眺めた。雲がゆるりと流れていく。
カービィはまた体を伸ばして精一杯手を伸ばしていた。無駄なことだとはわかってはいてもやりたいらしい。彼は自由に空を飛べるし、ワープスターだってある。それなのに何故こんなことをしているのか、ワドルディはわからなかった。
「あー、ダメだなー」
心底残念そうな彼に、ワドルディは困った。
「どうして空はあんなに遠いんだろう」
また同じ疑問を呟く。その瞳には涙が溜まっていた。ぎょっとするワドルディに気付かないカービィはぽすん、と座り込む。
「うーん」
本当に埒が明かない。ずっとこんなことをしているつもりなのだろうか。
「ねぇ、どう思う?」
「そんなこと言われても……おいらにはわからないッス」
カービィの思考も、と声に出さずに呟いた。
カービィは同じ疑問を何度も何度も繰り返した。だんだんその意味さえもわからなくなってくるぐらいに。
どうしてあんなに空は高くて、遠くて。いつだって気まぐれなのだろう。
やがて日が落ち、辺りはだんだんと暗闇に染まってきた。ワドルディは立ち上がる。
「そろそろおいらは帰るッス。カービィも早めに帰るッスよ」
「うん」
ワドルディが去っていく足音を聞きながら、カービィは夜空に一番星を見つけた。やがて空にきらきらと星が瞬き始める。
「宇宙に行ったって、遠くて掴めなかったんだ」
星はきれいに輝く。何度も落としたり、かけらを取ってみたりもした。だけどそれは完成されたものではなく、一旦輝きを失ったものだ。
「ずっとボクの傍で輝いていたらいいのに」
何度も掴もうとしてだけれど遠くて。掴めなかった。
「どうすれば、届くのかなぁ」
ぼやいた言葉は他人からすればきっと意味のわからないものに違いない。
2010.9/9