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□変わらない君とボク
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 そっと触れた傷痕は会っていない間の彼を物語っているようで、少しだけ淋しい気持ちになる。しばらくの間会っていなかっただけ、たった一年の間にずいぶんと落ち着いてしまった相棒。再会出来たのは嬉しいと言うのにその空白がなんとなく苦しい。弟分であるガムドラモンに対してすっかり先輩らしく落ち着いて宥める姿も、熱さは変わらないのにまるで違う人のようだ。



 昼休み、いつもの屋上。気ままに吹く風に吹かれながら壁にもたれ掛かっていると、クロスローダーから熱い相棒の声が聞こえてきた。
『タイキ、どうした? なんかボーッとしてるな』
「え? あ、いや」
 心配するような声にはっとして首を横に振る。タイキはクロスローダーを取り出しシャウトモンの声に耳を傾けた。
『タイキ?』
 訝るように名前を呼ぶシャウトモンに「なんでもないよ」、と言いながらもどこか上の空。タイキは無意識にクロスローダーの端をなぞっている。懐かしむようななぞり方で、指先は愛おしむようだ。
『どうした?』
「なんか、シャウトモンが違うやつみたいだ」
 心ここに非ず、といった調子だが呟いた言葉は本心だろう。シャウトモンはクロスローダーを飛び出してタイキの隣に立った。屋上なら人に見られることもない。見上げればやはりタイキはらしくなくぼうっとしている。
「タイキ」
「……?」
 シャウトモンがリロードされたことにも気づいていなかったのかゆっくりとした動作でタイキは斜め下にいるシャウトモン確認した。さすればみるみる内にタイキは破顔していく。
「シャウトモン」
 嬉しそうに微笑んだタイキは目に涙を浮かべていた。
 内心ギョッとしながらシャウトモンは「おうよ」と返事を返す。タイキの手が伸びてきたのを受け止めて、聞いた。
「タイキ、どうしたんだよ」
「なんか、久しぶりに会ったらシャウトモンがシャウトモンじゃないみたいで」
 涙声で答えるタイキはいつもの凛とした彼ではない。
「本当に、シャウトモンなんだって思っても。すごい貫禄出ちゃってさぁ、まるで別人だ」
 タイキたちの世界では一年しか経っていなくても、デシタルワールドの流れは早く二百年程の月日が経っている。シャウトモンは王者として、経験を積んできた。きっとそのせいだ。シャウトモンじゃないみたいだなんて思ったのは。
「シャウトモンが王様として頑張ってるのがわかったのは嬉しいのに、なんでだろうな。なんか急に知らない人みたいになっちゃったのが淋しくなったんだ」
 ぎゅっとタイキはシャウトモンを抱きしめた。その温もりを確かめるように。シャウトモンはタイキの吐露を聞き、「参ったな」と呟く。タイキが顔を上げれば罰の悪そうな表情のシャウトモンが言葉を探して視線をさ迷わせていた。
「まさかタイキがオレとおんなじこと考えてたとは、思わなかったぜ」
「へ?」
 シャウトモンの言葉をすぐには理解出来なかったらしいタイキは口をぽかんと開ける。手をなんとか伸ばしてシャウトモンがタイキの頭を二回ほど叩いた。
「オレも、おんなじこと思ってたんだぜ」
 必死に背伸びをしているシャウトモンにタイキがくすりと笑う。それに少しだけ、頬を赤らめながらもシャウトモンは自身の胸を張って言った。
「なんか、タイキもすっげー大人っぽくなったっていうかさ」
 今度は驚きに目を丸める。タイキの反応に明るく笑って、シャウトモンは言葉を続けた。
「タギルやユウに対して、随分と冷静に見守ってるじゃねぇか。もともとタイキは、なんていうかクールな面もあったけどよ」
 それから、少し背が伸びた。
 シャウトモンに言われてタイキもようやく微笑む。
「なんか、変わったなーって。でもやっぱ」
「変わらないってか?」
 タイキの問いにあぁ、と頷く。タイキの「ほっとけない」精神は一年経っても変わらなかった。
「そっか。なぁんだオレたち、同じこと思ってたんだな」
 力を抜いて笑ったタイキに照れ笑いで返したシャウトモンは鼻を擦る。タイキは傷痕だらけのシャウトモンを労るように撫でた。くすぐったそうにするシャウトモンに笑いかける。
「あ、いたいた! タイキさん!」
 明るい声のした方に顔を向けるとタギルとユウが駆けてくるところだった。
「タギル、ユウ」
「聞いてくださいよタイキさん! さっきユウが」
 タイキの目の前で止まってにこり、と笑ったタギルは先程あったユウの話を意気揚々と話しはじめる。
「ちょっと、やめてよタギル! タイキさん違うんですぅ!」
 それを止めるのに必死になるユウがタギルに引っ付き始めるといつもの口喧嘩が始まった。
「なんだよ、言っとくけどさっきのはぜーったい言うからな!」
「言うなってば!」
 後輩二人のいつもの光景にタイキとシャウトモンは顔を見合わせて微笑む。
「ったくしょうがないなぁ」
 立ち上がったタイキはシャウトモンの頭を一撫でしてから喧嘩の制裁に入った。シャウトモンもとりあえず、一声掛けてみる。
「ほら、やめろよ二人とも」
「喧嘩するほど仲がいいとは言うけどなぁ」
「だ、誰がこんなやつと!」
「なんだとぉ!」
 日差しの下、気持ちの良い風の中で、昼休みの時間は過ぎていく。




2012.1/20

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