SS
□拍手御礼SS 再録
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【君が好き】
「アーダルベルト」
綺麗で透き通るかのような声。もう聞き慣れた、自分の婚約者の声だ。
「どうした?」
彼女は少し首を傾げて、笑った。視線はしっかりとこちらに向いている。目は見えないが、彼女はとても聡明だ。
「どうした、って……あのね」
思い出したのかくすくすと声に出して笑う。こちらには何を言いたいのか、わからないが、もう予想はついた。
「コンラッドが昨日、私のところへ来たの」
「あぁ」
あの混血の王子が。
「……嫉妬してくれた?」
期待するように、彼女は訊いた。もちろんこれはアーダルベルトをからかっているのだが。
本当は嫉妬した、と言いたかったがそんなこと言ったら、恥ずかしくて。アーダルベルトは「そんなことはない」と言い放った。彼女――、ジュリアはそれでもわかっているのか嬉しそうに笑う。
「で、どうしたんだ、お前は」
「アーダルベルト」
楽しそうに笑う。薄い水色の、青空の瞳がこちらを見つめた。
「私は、あなたが好きよ」
突然何を言い出すのだ、この人は。
怪訝そうな顔をして彼女を見ると、彼女は微笑んだ。
「だからね、結婚してもいろいろ料理を作って、ね?」
そう笑う、彼女が。
そう言う、彼女が。
「……わかった」
好きなのはもう、自分でもわかっている。
―END―