SS

□拍手御礼SS 再録
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誰のお嫁さんになる?【2】







「猊下!」


 彼にしては珍しく、助けを求める声をコンラートは出す。眞王はその声に眉間の皺を寄せた。
 せっかく上手く行きそうだったというのに、何をするんだ。
 村田を恨めしげに睨むが、彼は怒っているらしく、眞王を睨み返した。
「全く、君は何をしてるんだ」
 彼は拗ねた口調で意外と大きい双黒の瞳を細める。眼鏡が光を反射して光った。
「僕達の目の前で、眞魔国を揺るがす大騒動を起こすつもりかい?眞王」
 腹の底からを出しているのか、声は低く、どす黒い。
 そういえば、とコンラートが村田の後ろを見遣ると、ウルリーケが申し訳なさそうに頭を下げた。一部始終を見ていたのは村田だけではなかったのだ。コンラートは恥ずかしく感じ、顔を真っ赤にさせて俯いた。
 そんなコンラートを抱き寄せ、眞王は村田に言い返す。
「コンラートは我が嫁に選ばれたんだ。お前には関係あるまい」
「な、関係あるさ!」
 村田は珍しく叫ぶと、コンラートと眞王に近づき二人を引き離した。普段は余裕たっぷりなのに今日ばかり村田は激昂する。
 ユーリのことならともかく、今日の村田健はおかしかった。
「ウェラー卿は渡さないよ」
 そう言って村田はコンラートを抱きしめる。力加減が調整されてなくて、正直痛かった。だがコンラートは何も言わない。
 眞王は村田のまるで子供のような行動に微笑んだ。可愛らしく思えて何だか和む。ケンカ中ということも忘れてしまいそうだ。
「何笑ってるのさ」
「あぁ、すまなかったな、俺の大賢者」
 村田はただ単に拗ねているのか、それともコンラートが好きで眞王に渡したくないのか。どっちもだろうか。
(実に愛らしい)
と、眞王は思った。
「……」
 だが挟まれているコンラートはそろそろ堪ったものではなくなってきていた。
 眞王廟に響く二人の声は、たしかに耳に心地好いのだが。

 どうしよう。

 コンラートは天井を見上げ、困惑した。





―続く―
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