SS

□拍手御礼SS 再録
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【飴】



「コンラッドってさ、コーヒー好きだよな? 」
「えぇ」
 漆黒の瞳を瞬かせて、少年は護衛であり、保護者であり、そして何より大切な恋人である青年を見詰めた。その瞳は興味津々という風に、輝いている。
「ヴォルフも地球に行ったときに随分気に入ってたよな、グウェンにも勧めてさ……。じゃあブラックとクリーム入れるのとどっちが好き? 」
「そうですね……」
 青年はしばらく考えるそぶりをみせた。その間に少年が紅茶を啜る音と、薪がぱちぱちと爆ぜる音が静かに鳴る。
「俺は、……ブラックの方が好きかな? 」
 彼にしては珍しく疑問形。微笑む青年に、少年は訝しげな瞳を向けた。少々首を捻る。
「別に、『どちらも好き』でもよかったんだけど」
 純粋に疑問なのだろう。「気を使わなくていいよ? 」と可愛らしい顔を遠慮気味に近付けた。
「当にブラックが好きなんですよ、だって」
 青年は柔らかに笑うと少年の首に手を回し、抱き着いた。そして、耳元で囁く。


「黒は貴方の色でしょう?」


 その言葉に少年の顔がみるみるうちに真っ赤に染まっていった。耳元まで真っ赤になり、かなり動揺しているようだ。
 よくそんな歯が浮くような台詞を言えるな、とは言えず、少年は早口で命令する。
「コンラッド、口、口開けて」
「? 」
「それから、目は閉じて」
 青年は首を傾げながらも大人しく遠慮気味に口を開いた。少年は青年にばれないよう、音を発てないよう、丁寧にポケットの中から用意していたものを取り出す。そして、それを口に含むとそっと唇を重ね合わした。
 それがころり、と口の中を移動して、青年の口に入っていく。苦くコクのある、懐かしい味。
「あ、コーヒーの味……ですね」
「おれにはちょっと苦すぎだなぁ……」
 ぽそりと呟かれた少年の言葉に、青年が苦笑する。
「もうちょっと、大人になったら美味しく感じますよ」
 少年のムッとした顔が見えた。それからすぐに、また貪るかのように唇を合わせられる。今度は深く、飴を舐めてるのか舌を絡めているのかわからないぐらいに。
「ん……」
「子供扱い、するなよ」
 拗ねたように頬を少し膨らませる少年に、青年は微笑む。
「ユーリ」
 少年の頬に口づけして、抱きしめた。

「飴、有難うございます」





END
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