小ネタ集
□まるマ
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「そろそろ髪の毛切るか」
ぼそっと呟いた言葉にユーリが反応する。今まで散々仕事を強要され疲れきっているのか、顔だけがこちらを向いた。
「髪、切るのか?」
少しワクワクした響きを含んだ言葉に苦笑しながらコンラートは返事を返した。
「えぇ、少し伸びてきたので」
20年前はそんなことも気にしていなかったが、あまり伸びていると視界が見えにくい。ユーリの護衛をするにあたって何かあっては困るのだ。
コンラートの返事にユーリは瞳を瞬き何か考えているようだ。そしてしばらくするとユーリは椅子から離れてコンラートの後ろに回る。
「じゃあさ、おれと初めて会ったときはかなり短くしてたじゃん。それぐらいにしてくれると嬉しいんだけど」
コンラートの伸びた髪を弄りながらユーリは言った。コンラートはユーリの言葉に少し間を置いてから「そうですね」、と返事をした。コンラートが可愛い名付け子のお願いを下げるわけがない。
しかし、こうしてみると。ユーリは思う。自分とコンラートのこの身長の差は随分あるように感じるのだ。彼の頭をいじくるには手を伸ばす必要がある。それ程には自分はコンラートより小さいのである。
そう考えると、
「……やっぱり、後一週間ぐらいはこのままでいいかも」
「え?」
もうちょっと、この髪を弄りたい、なんて思った。悔しいから、どうせなら自分が彼の身長に追い付くまではこのままでいてほしいなんて。
(わがままだよなぁ、おれも)
髪が短い彼も好きだけれど、追いつくまでせめて。
このままで、この時間が好きなんだ。
2010.9.7