小ネタ集

□遊戯王
8ページ/9ページ


噛み合わない



 どうにもこうにも締まらない。彼に振り回されているばかりだ。
「だーっ! お前がまたごちゃごちゃ言うから!」
 とうとう頭にきて遊馬は怒鳴った。怒鳴られたアストラルはいつものようにきょとんとした表情で遊馬を見つめる。第三者にはアストラルは見えないため遊馬には周りからの視線が突き刺さって仕方ない。それも相まって遊馬はいたたまれない気持ちになった。
「大体、お前に言われたくないし」
 独り言が増えたと思われているらしく、最近遊馬は「変な子」と言われることも多くなった。これも彼のせいだ。遊馬はアストラルをジト目で見る。しかし彼には理解できないのか効果はないようだ。空いた空間に話かけているのを自分で想像するとげんなりする。
『遊馬、君はやはり変だ』
「あ、あのなあ」
 ずれた返答を返すアストラルにずっこけかけた遊馬は彼がナンバースとデュエルする度に変化していることを思い出して彼を凝視する。
『……ん?』
 でもなんとなく、そう思っただけだから気のせいなのかもしれない。年が同い年ぐらいで、記憶喪失。彼に関する知識だってあまりないのだから断定するには早いだろう。ああそういえば。
 彼に向かって手を伸ばしてみた。触れられると思った手は彼の体をすり抜ける。いままで試していなかったがどうやら彼はそれこそ"幽霊"に近いようで触れられないらしい。遊馬はますます困惑する。アストラルはじっと遊馬のしていることを見ているだけだった。
「やっぱこいつ、幽霊なのかー?」
 わかんないぜ、などとぼやいて頭を抱える遊馬をこれまで無言で見ていたアストラルはふと街頭TVを見つけた。画面には頭を抱える若い男の肩にえらそうな中年男性が手を置いている姿が映っている。台詞はうまく聞こえなかったが今の遊馬に言葉をかけるならこうすればいいのだろうか。
『遊馬、リス、トラ? だ』
「はああああああああ?」
 肩に手を置く素振りをして言ったアストラルはあくまでも気を使ったつもりだったのだが。遊馬は素っ頓狂な声をあげた。明らかに「こいつは何言っているんだ」というニュアンスだ。うまく言葉を繋げられなかったせいで意味のわからないことになって、遊馬には気遣いが伝わらなかったらしい。正しい台詞を言ったって、逆効果なのは明らかなのだが。記憶喪失であるアストラルにはわからなかっただろう。
「意味わかんねーよ! リス? トラァ?」
 その二匹がなんだってんだよ、と遊馬は再び頭を抱えてしまう。アストラルは首を傾げ、
『やはり君は変だ』
と言い切った。







2011.6/2

次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ