小ネタ集

□遊戯王
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 小さいときから、その夢はみていた。


 ――だけれどそれが何の夢なのかは、わからなかった。ただそれからずっとずっとその夢を見続けた。
 泣き叫ぶ赤ん坊の声、鳴り響く警報、電源が落ち暗い部屋。そして、赤ん坊に微笑む傷ついた男性。


 そうして時が経って、ゼロ・リバースのことを知った。


 男性は赤ん坊を何かに置いた。赤ん坊はそこから射出され消える。そこは脱出装置のようなものだったのだ。次の瞬間、閃光が部屋を包む。
 その光は町をも飲み込んだ。大地が裂け、町は分断された。
 モーメントの暴走によって生み出された悲劇。そしてそのモーメントを作ったのが――。




 遊星は胸元を押さえる。そうすることで胸の痛みを和らげたかった。
 ジャックも、クロウも。マーサハウスの子供たち、サテライトの住民たちも。自分の父が開発したものによって家族を、大切のものを奪われたのだろうか。
 息が出来なくなるほど苦しい。瞳を閉じる。息を吸っても多少の空気が入ってくるだけで、楽にはなれない。壁に寄りかかって姿勢を楽にするしかなかった。
 虚ろになった瞳で見上げた空は汚れきって青も見えない。無意識に流れ落ちた涙はコンクリートに染みる。まるで喉になにか詰まってしまったかのように息がほぼ入らない。苦しい。胸も痛い。胸を占める、締めるものは罪悪感。
 わかっている。これはきっとずっと死ぬまで持っていかなければいけないもの。死んでも刻んでおかなければいけないもの。
「まったく腕がいいからといって一人でふらつくなとあれほど言ったろうに! クロウに怒られたではないか」
 ぶつぶつと文句を言いつつ大股で歩き、発信機の示した場所へ向かっていたジャックは目的の人物を見つけていつもの大声で呼ぼうとした。しかし口を開けたところで息が止まり声は出なくなる。
 彼はこちらに気づいて壁から背中を離し、ジャックの名を小さく呼ぶとここに来た理由を察したのか彼の元へ小走りに向かう。
「ジャック、すまない。クロウに言われたんだろう?」
「あ、ああ」
 頷いたジャックを確認すると遊星は歩き出した。自分たちのアジトに向かうためだ。
「遊星」
 ジャックは遊星を呼んだ。小さな声だったが彼には聞こえていたようで彼は振り返る。
 だがジャックはなにも言えなかった。聞くのは躊躇う、内容だった。遊星は首を傾げる。頬には微かだがたしかに涙の痕があった。ジャックは手を伸ばして遊星の手首を掴もうとする。
「ジャック早くしないと暗くなる」
 だが再び遊星は歩き出してその手は空ぶった。彼の後ろ姿はしっかりしていてなにもないようだったが。
 ジャックは伸ばした手を体の正面に向けて見る。それはすこし震えていた。怒りに、燃えていた。拳を握り締める。それでもまだ、怒りは収まりそうになかった。
 どうしてお前は笑わなくなった。どうしてあんな表情をする。ずっと一緒にいたのにわからない。兄弟だと思ってきたのに。
 なにも聞けない自分と、何も話さず内面を見せない遊星に苛立った。



 空は汚れきって青は見えない。ここはサテライトだからだ。






2011.6/7
2011.11/7 修正

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