SS

□チョコなんていらない
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 ずり落ちていた上着がとうとうベッドに落ちて、ドキッとした。シャツの切れ目から入れられた指が鎖骨を辿る。後ろに退路はない。ベッドに乗り上げたと思えばすぐに壁側に追い詰められて逃げ場など無くなってしまった。
 胸元まで指が入ってきたので手首を握ってやめさせようとしたが彼はその動きを止めない。
「ヨザ!」
 耐え切れず名前を呼ぶと彼は首を傾げてニタリと笑った。
「どうしたんですか隊長」
 わざとらしい口調で問い掛けるとヨザックは開いた手でコンラートの右手付け根を撫でる。
「どうしたもないだろう」
 コンラートがいらついて口調が荒くなるにも関わらずヨザックは肌に触れていた指を離しシャツのボタンに手を掛けた。ぷち、と簡単に数個のボタンが外れて胸が晒される。
 抵抗しようとも体が動かずコンラートはヨザックを睨みつけるしかなかった。それに対してヨザックは余裕だ。自身の体を重りがわりにしてコンラートの動きを封じれば力の差で彼を押さえ付けておける。
「ヨザック」
 コンラートの睨みを軽く受け流してヨザックはコンラートの首筋を強く吸った。びく、とコンラートの身体が反応したのを薄く笑う。
「この――!」
 びくともしない身体を揺らしてコンラートは抵抗したがやはり力の差があるのか脱出は叶わなかった。
「今日はバレンタインとかいう日らしいって坊ちゃ……おっと陛下から聞きましたけど」
「それと今の状況が何の関係があるんだ」
 刺々しい態度のコンラートに苦笑しながらヨザックはコンラートの脇腹を擦る。
「チョコレートの代わりに隊長でももらおうと思って」
「この……」
 ヨザックの狙いを知ってコンラートは言葉を失った。何しろコンラートは女性がチョコレートが贈る日だとしか知らない。ユーリたちの世界で変わっていったバレンタインの風習など知らなかった。
「やめろと言っているだろう」
「言いましたっけ?」
 ヨザックは口笛でも吹くような軽い口調でさらにコンラートのズボンに手をかけ始める。
「菓子なら後でやる」
「いいんですよそんなの」
 ヨザックを止めようと言い募るコンラートだがヨザックはやはり止まらない。
「オレは隊長がいいんで」
 ニッと口端を吊り上げたヨザックはコンラートの唇を奪った。結局、彼を止めることなど出来やしなかったコンラートはそれから毎年迫られることになるのだが、事前に菓子を用意することでなんとか防ぐことになる。





2012.2/13


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