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□君はあの人のようで(1)
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この猫は一体、何者なんだろう?
「めぇ―!」
高い声で可愛く鳴いたその猫に、ユーリは一目惚れした。
茶色でふさふさで柔らかい毛並み。そして、猫には珍しい、毛と同じ綺麗な茶色の瞳。
よく見ると、瞳の中には銀の星が散りばめられていた。
……そっくりだ。
「お前、コンラッドにそっくりだな」
そう、この子猫はあの名付け親によく似ている。
ユーリがそう言った瞬間、目の前の子猫は何か必死に訴えようとした。
「めぇー!めっめっめっ、めぇぇ―!」
だが、悲しいかな、人間に猫語は達人でなければ理解不能だ。
ひょい、とユーリは子猫を抱きかかえた。そして自室へと向かい歩き始める。
「めぇっ?!」
「とりあえず、おれの部屋へ行こうな!」
そう言って笑顔で強制連行されてしまう。
「めぇ―……」
子猫はなんとも言えず、脱力した。
***
子猫はユーリに連れていかれる間、何も抵抗をしなかった。素人の抱き方でも、その素振りを見せなかった。
そんな彼は、すでにユーリの腕の中でうとうとしている。
やっとたどり着けた自室には、婚約者のフォンビーレフェルト卿ヴォルフラムが居座っていた。そして、その隣には可愛い愛娘、グレタもいる。
「あっ、ユーリ!どうしたの?その猫ちゃん!」
夕夕夕ッと愛らしい笑顔を撒いて、グレタが駆け寄ってきた。それにユーリは笑顔で答える。
「廊下にいたから連れてきたんだ」
「首輪はしていないようだが……。野良猫か?」
横からヴォルフラムが覗いてきた。ひょい、とユーリの腕の中から子猫を奪う。
「めぇ?」
子猫は眠気が消えていない。それゆえ一旦キョロキョロと辺りを見渡したが、一つあくびをすると、ヴォルフラムの胸にすりよって、寝てしまう。
「可愛い〜!」
グレダが歓喜の声をあげる。
((かっ可愛い!))
大人二人組も、子猫の愛くるしい姿に胸を打ちられたようだ。
そうとも知らず、子猫は夢の中に入っていた。
「なっ名前はどうする?」
子猫を起こさないよう小声で相談する。
「そっそうだなぁ、コンラッドに似てるから、コン、かな!」
「確かに、あいつに似ているな……」
「賛成!グレダもコンがいい!」
グレダの意見もあり、子猫の名前は「コン」に決定した。
だが、ヴォルフラムは兄とこの子猫が似ていることが気になった。
(調べてみるか。何か引っかかる)
おそらくは、あの女性が関係ありそうだ。というよりそれしか考えられない。
腕の中の子猫は、少しみじろいだ。
***
「確かに、私が間違えてぶっ飛ばした瓶がコンラートに当たり、彼は猫の姿になっていますが。それが?」
すっぱり言われて、「やっぱり」とヴォルフラムはうなだれた。
「元々は、グェンダルが悪いのですから、文句は彼に言いなさい」
優雅にアニシナは紅茶を口に運ぶ。
小柄でこの可愛らしい外見からは想像できないが、彼女こそ「マッドマジカリスト」、「毒女」と恐れられている、フォンカーベルニコフ卿アニシナ様々だ。長兄グェンダルの幼なじみにして、眞魔国三大魔女の一人でもある。
「元に戻るのだろうな?」
問われた内容にアニシナは凛々しい眉を片方あげた。
「今解毒薬を造っています。しばらくお恃ちなさい」
「どれぐらいかかる?」
ヴォルフラムとしては1日も早く兄に元に戻ってほしいのだが。
「1ヶ月です!」
そんなにかかるのか!?
驚きは、声にならなかった。
→続く