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□君がいる日常
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「お帰り。」
やっと戻って来られたのだ。自分の愛する人達の下へ。大切な、主の下へ。
「ただいま、……ユーリ。」
この言葉と共に、眞魔国へ、自分の故郷へ。やっと帰ってこれた。
ただ、それでも不安が胸のなかをよぎっていた。このまま、ここにいていいのか、と。不安で不安で。空を見上げる度、そう思って。
このまま自分は、ここにいていいのだろうか……?
◇◇◇
――名付け親が帰ってきた。
それだけで気分は高揚がした。……そういうわけで近頃のユーリは機嫌がいい。彼にとって名付け親、コンラートはとても大切な男性(ひと)で。長らく不在だっただけに、彼の帰還はとても嬉しいことなのだ。
今日もまた、″キャッチボール″をしようとコンラッドの部屋へ突撃する。
「コンラッド、キャッチボールしょうぜ!」
しかし。バン!と扉を開けたのにもかかわらず、彼はこちらに気づいていなかった。ぼぅっとした様子で窓から空を眺めている。……なんだか彼らしくない。
いつもなら部屋へ来る前に、足音や気配でわかっているはずなのに。大きな音を出してもこちらに気づかないなんて、おかしい。
「……コンラッド?」
不審感丸出しで問いかけても反応がない。
「コンラッドってば!」
近くに行って、やっと気づいてくれた。いつもならすぐ気づいてくれるのに。
「……ユーリ?なんです?」
軽く首を傾げていると、可愛く見えてドキッとする。けれどさっきおかしかったのは何故だろう?
「キャッチボール、しようかと思って……。」
「はい、いいですよ。」
にこり、と笑って誘いに乗ってくれる。
いつも通りの彼に見えるが、やはり何か変な気がする。……そう思ってユーリは表情を歪めた。
「どう、しました……?」
「何でもないよ。」
早く行こう。
そう言って彼の手を引いて歩き始める。びくん、と一瞬彼が反応したのがわかって……やはりどこか変だ、とユーリは思った。それに彼は気づいただろうか。
***
「ユーリ!よくわかんないけどコンラッドが変なの!」
愛娘であるグレダにもそう言われ、ユーリは驚いた。子供は敏感なのだろう。しかし、やはり彼の様子は変なのだ。彼らしくない。
(やっぱり……なんか変なんだよなぁ。)
彼の様子がおかしくなったのは、大シマロンから帰還した日である。
(コンラッド、まだ気にしてるのかな……。)
恐らく彼は自分がこの場所に帰ってきたことに、未だに抵抗があるのだろう。だから周りに対しよそよそしくなってしまう。
(……まだそんな事、考えてるのか。)
正直、もういいだろう。
コンラッドはそういうところが悪い癖で。いつも他人優先ばかりして。自分のことになると不器用で、自己嫌悪ばかりして。何でも独りで抱えこんで、他人に触らせようとしない。
あのときだって、そうだ。
大シマロンで、初めて敵として再会したときも、自分の前では笑顔を造って、会話して。無理をしてというわけではないかもしれないが。
『次にあった時は、敵です。』
あのときのあの言葉は、自分自身に言い聞かせていたのかもしれない。
どうしてあの人はこうなんだろう。
あの日自分は、彼に騙された、と思った。……けれど、それでも彼を信じたかった。最後まで信じて、彼を取り戻したかった。結果、彼は帰ってきたのだが。
もしあの演技にずっと騙されて彼を信じることができなかったら、彼は帰って来なかっただろう。あのときの自分の判断は間違っていなかったのだ。
不器用だから、守りたくなった。今は守られるのではなく、守りたい。
信じることで彼を救えて、本当によかった。そう思うからこそ、今の彼を変えてあげたい。
明日、言おう。
「無理はするな」、と。
そう決意して、ユーリは寝た。