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□君がいる日常
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「で、出掛けてる……?」
 部屋に彼がいなかったのでグウェンダルに居場所を問うと、予想外の返事が返ってきた。ウェラー卿コンラートは外出中だ、と言われたのだ。
「外出って、どこに?」
「コンラートの事だから、城下町だろう。何の用だ」
「いや、キャッチボールしようかな、と思ったんだけど」
 出掛けているのなら仕方ない。彼が戻るまで待つだけだ。
 グェンダルに礼を告げて部屋を出る。大きく溜め息をついた。
(城下町に何か用があっていったのか……それとも)
 何か、悪い予感がする。もし城下町へ用がなくて、彼が……死にたいと思っていたら。ぞくり、と悪寒が走る。
 自分の思い違いだったらいい。……それでも、やはり。
「ああっ!もう!」
 心配で。
 ユーリは急ぎ支度をし始めた。もちろん、コンラッドを迎えにいくためだ。彼はどんなことを考えているか、わからない。第一、自分がこの国に滞在している時、彼一人で外出する事はめったにない。
「アオ、行くぞ!」
「えっ、陛下、どちらへ……!」
 誰かが何か言ったが、それも聞かずに飛び出す。あとで盛大に怒られるだろうが、今は一刻も早く彼に会いたかった。
 思い違いであればいい。ただそれだけが頭の中を占めていた。


「…………」
 コンラッドは高い丘の上に座っていた。流れ吹く風が気持ちいい。ここから見える景色はとても綺麗だ。
 やはり自分には旅をしている方が性に合うのだろうか。
 ぼんやりとそんなことを考えながら時間を過ごす。もしもここに誰かいたら「よく飽きないな」と呆れられてしまいそうだ。
 遠くから馬の蹄の音が聞こえるが、誰が来たのかは分かっているので敢えて無視をしてみる。
「なんで、こんな、ところにっ、いるんだよっ!」
 上から降ってくる少年の声。彼のことは、よく知っている。自分の最愛の王で、可愛い名付け子。そして、憧れの人。
「ユーリ」
 第27代目魔王、渋谷有利陛下だ。
 息を切らしつつ、こちらへ勢いよく向かってくる。愛らしい表情は焦りと緊張で歪んでいた。何かあって、自分を呼びに来てくれたのだろうか。
「ユーリ」
「――っバカ!」
 話かけようとして、突然怒鳴られた。
 一体何があったのだろう、と考えていると、また突然ユーリが抱きしめてきた。まったく彼の行動の意味がわからない。ユーリのことなら、なんでもわかる、と思っていたのに。
「ユーリ、どうか、しましたか?」
 そう言うと、やっと彼は開放してくれた。真っ直ぐ自分を見つめる瞳には、彼の性格全てを表れている。綺麗な、黒。漆黒の瞳が真っ直ぐに自分を見つめていた。
「おれ、コンラッドが帰ってきてくれて、嬉しいと思ってる」
「……ユーリ?」
 また突然そんな事を言って。よく、わからない。困惑するコンラッドを見かねたのかユーリは苦笑した。
「あのな、あんたが何考えてるのか、不安でさ。城まで飛び出しちゃったんだ」
 それは、もしかして。
「ユーリ」
「でも、心配無用だったな。ごめん」
 そう言って頬をかくユーリを見て、コンラッドは自然に頬が緩むのがわかった。
(どうして、この人はこんなに優しいんだろう)
 ユーリは、自分を心配して、ここまで来てくれたのだ。
「コンラッド」
 名前を呼ばれて、返事をしようとする。けれどその前に唇を奪われて、呼吸が出来なくなる。 
「んっ……!」
 舌と舌を絡め、互いの味を確かめるように熱く、キスをする。
「ん……ふっ……ぅんっ……!」
 熱い。体中が熱くなってゆく。何度も心の中で好きだ、と思う。二人の間に透明な糸が落ちた。しばらく見つめ合う。


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