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□ダークネスドリーム
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悪夢を見た。
それは、昔の夢。
「薄汚い人間の手で僕に触るな!」
大きな音を立て、大好きだった兄の手を叩き、ヴォルフラムは拒絶する。
それに対し彼は少し寂しげに笑っただけだった。
「……ごめんな」
消えそうな声で謝ると、去っていく。
その後ろ姿を、ヴォルフラムは見送る事しか出来ず、唇をきつく噛み締めていた。
複雑に感情が絡み合っている。訳が分からない感情が交じり合う。
あいつは、今まで自分を騙していたんだ。
拒絶は当たり前。
そのはずなのに。
最初に嗚咽が洩れた。
次に涙がこぼれ落ちていく。
「……っなんだ、これ、は」
訳が分からぬまま、ヴォルフラムは床に崩れ落ちた。涙が止まらず、床に小さな水溜まりを作り上げる。
大声で泣きたかった。
だがそれは小さなプライドが許さない。泣き声を殺して彼は部屋の隅でうずくまり、泣いた。
「……ごめんな」
と言った兄の声が耳から離れず、何度も頭の中で反芻した。
「ちっちゃな兄上」
小さい声で、彼を呼ぶ。
窓からは暖かな日差しが差し込んでいた。
***
「……」
昔の夢を見た。
分類するのならば、悪夢だ。
はっきりしない頭で、ヴォルフラムは起き上がった。
隣で寝ていたはずのユーリは既にいない。またコンラートと共にとれーにんぐとやらに行ったのだろう。
「……コンラート」
彼の名前を呟くと、ヴォルフラムは溜息をついた。
次に会ったとき、どう接しればいいだろうか。あんな夢を見た後ではどうにも気まずい。
もう三番鳥は鳴き、まもなくユーリの朝食が運ばれる頃だろうか。ならばもうすぐ二人が部屋に戻ってくるはずだ。
「だから陛下って呼ぶなよ名付け親」
「すいません、ユーリ。つい癖で」
扉の向こう側から聞き慣れた二人の声が聞こえる。ヴォルフラムは深く息を吸い込んだ。
「あれ、ヴォルフ起きてたのか? こんな朝早く起きてるなんて珍しいな」
扉を開け、ユーリはヴォルフラムが起きていたことに驚く。
「五月蝿いっ」
ヴォルフラムはそっぽを向き、次に入ってくるはずの人物に顔を見ないようにした。
「ユーリ、朝食は」
後から入ってきたコンラートがユーリに問い掛ける。
「あぁ、もちろん食べる! もう腹減ったよ」
「ではメイドに運ばせますね」
コンラートがユーリに微笑んだ。それだけなのに、胸の奥が痛くなる。
何故なのだろう。