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□ダークネスドリーム
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「……っ僕はいらない」
 言葉を返すので精一杯になる。何故そうなるのか分からなかった。
「だけどちゃんと三食食べないと体に悪いぞ」
 コンラートが今だに兄として自分に接してくれるのは嬉しいと思うのに。
「いい。寝起きで今はそんな気分じゃない」
 それさえ突っぱねて、ヴォルフラムは再び布団に潜り込んだ。ユーリが呆れたようにその布団の隙間を覗き込む。
「二度寝かよ? 全くだらし無いなぁ」
「五月蝿い」
 ユーリの声も聞きたくはなかった。
「じゃあコンラッド、朝食食べようぜ」
「はい」
 二人が話しているのを聞きたくはなくて、ヴォルフラムは布団の中で両耳を塞いだ。
 だがそれでも二人の会話が聞こえてしまいそうで、硬く瞳を閉じ、丸まった。


「ちっちゃな兄上」
 なぜ、教えてくれなかったのですか?

 幼い頃の自分の声が、また蘇る。
 何故、彼は自分が魔族と人間の混血だと教えてくれなかったのだろう。
 涙が溢れて、こぼれ落ちた。


 ***

「なぁコンラッド」
「何ですか?」
 もう陽が落ちかけている頃、静かな裏庭に、渇いた皮の音が響いていた。
「ヴォルフいつまで寝てんのかな」
 キャッチボールしながら話すことはたわいないものばかりだった。が、ユーリはふと思いだしコンラートに問い掛ける。
「さぁ?」
 しかしコンラートは首を傾げただけだった。
 ヴォルフラムは今だ布団に包まって寝ている。
 ユーリはそれがどうも気になるようだ。
「もうすぐ夕食なのにな……」
 もう既に厨房からは匂いが漂ってきている。あともうすぐで夕食が出来るのだろう。
「しょうがないな」
 コンラートは溜息を吐くと、ユーリに微笑み、言った。
「俺が起こしてきますよ」
「あ、うん」
 渇いた音が辺りに響く。ボールを受けた衝撃が腕に伝わり、震えた。
「早めにな」
「はい」
 その微笑みに胸が苦しくなるのにユーリは気づいたが、無視をする。敢えて、気付かなかった。


「ヴォルフ」
 遠くから聞こえる声に、ヴォルフラムは瞳を開けた。布団の中に入っているからか、視界は真っ暗だ。
「ヴォルフラム」
 扉を開ける音がして、聞き慣れた声が話し掛けてきた。近付く軍靴の音に、また耳を塞ぎたくなる。
 もう入ってきた人物はわかってしまった。
「そろそろ起きろよ」
 苦笑混じりにそう言うと、布団を剥ぎ取られる。ヴォルフラムはその人物を睨んだ。

「コンラート……」

 名前を呼べば彼は微笑み、全く悪気はないような明るい口調でこう言う。
「おはよう、ヴォルフ」
 ヴォルフラムの頭を軽く撫でると、ベッドの端に腰を掛けた。
 それを動くことも出来ずヴォルフラムはじっと睨みつけている。コンラートはもう一度ヴォルフラムの頭をゆっくりと撫でていた。
 コンラートの表情は穏やかだ。ヴォルフラムが睨みつけていても怒る様子を見せない。
「どうしたんだ?」
 コンラートは静かに問い掛けた。優しく、心地好い声だった。ヴォルフラムはその声が好きだ。昔から彼は優しくて、頼りになって。大好きな、「兄上」。
「――っ……」
 思わず泣きたくなり、ヴォルフラムはまたコンラートから視線を外した。コンラートは無言で優しく、ヴォルフラムの頭を撫で続けていた。
 しばらく時間が経って、啜り泣く声がして、コンラートは再び弟の名前を呼ぶ。
「ヴォルフ?」
 覗いてみると――ヴォルフラムは、顔を真っ赤にして涙を流していた。
「お前……」
「みっ見るな! コンラート!」
 ますます顔を真っ赤にするヴォルフラムを見て一瞬驚いた顔を見せたコンラートだったが、またすぐにそれは微笑みに変わる。
「ヴォルフラム」
 優しい声で弟の名を呼ぶと、軽く抱きしめて優しく背中を摩る。泣きじゃくる子供を宥めるように。

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