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□ダークネスドリーム
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「っ――……」
あの頃の感覚が鮮明に蘇る。
いつまでも、自分は彼に甘えてばかりだ。
「どうしたんだ?」
「……ん」
彼の温もりから離れられず、ヴォルフラムは目を閉じた。
夢を見た、とは言えない。それも、とても昔の夢だ。
彼を、コンラートを拒絶して傷付けた夢。そんなことを言ったら彼はどうするだろう。
「また怖い夢をみた?」
ヴォルフラムが言うことを躊躇している間に、先にコンラートが聞いていた。
ヴォルフラムはゆっくりと彼を見上げる。彼の瞳の中の銀の星は瞬いて、まるで本当の夜空のように思えた。
「何故、そんなことっ」
素直になれずに彼の軍服の胸辺りを掴む。それでもコンラートはヴォルフラムを宥めようとするのを止めなかった。
それを嬉しいと、心の中では思う。
「……昔はあんなにちっちゃかったのに」
おもむろにコンラートは言った。まるで懐かしむかのように。
「大きくなった」
その言葉と笑顔に鼓動の音が大きくなる。
「昔、お前が泣きながら俺の部屋に来たときがあったろう?」
笑いながら言う彼が、自分は昔から。
「怖い夢を見たって」
コンラートは優しくまたヴォルフラムの頭を撫でて、笑った。
「そ、そんなこと」
『ちっちゃな兄上ぇっ』
『ヴォルフ? どうした』
そんなことはない、と言いかけて、ふいに思い出した。
ヴォルフラムはコンラートから離れられない。それは、不安からくるものだ。
そして、昔もコンラートによく慰められた。
『こわ、怖い夢を見たんですっ』
『ヴォルフ』
不安を取り除くように、いつもこうやって抱きしめて、背中を摩ってもらった。
『大丈夫だよ』
彼はそう笑って、頭を撫でてくれた。
「大丈夫」
記憶と違えず、優しい声がそう言う。
「もう……子供じゃない」
不定の言葉は、か細い声でしか言えなかった。
「ヴォルフラム」
彼が優しくて、大好きな兄上なのは今も変わらないのだとわかってしまったから。
混血だからなんて関係なかった。
彼が自分が混血であることを黙っていたのだって、自分を傷付けたくなかったからかもしれない。
あの時と同じ優しい光が降り注ぐのを、今度は彼の腕の中で感じた。
「ヴォルフ、もうすぐ夕食だ。ユーリも待っている」
「……あぁ」
コンラートがヴォルフラムを放して立ち上がる。
「顔洗って、早めに来いよ」
そう笑う彼を夕日が照らしていた。
「わかっている」
遠ざかる彼の背中を、じっと見詰めた。
「コンラート」
呟いた名前は、彼の名前。
あの時とは違う感情が溢れている。
ヴォルフラムはゆっくりと歩きだした。
彼を追うために。
―END―