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□そして青年は血に染まる
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***


「大丈夫なのか?」


 一応尊敬している兄にも同じことを言われ、彼らしくなく、コンラートはきょとんとする。
「あなたらしくないですね」
 やっと出た言葉は、こんなものだった。そんな皮肉な発言にも怒らずに、グウェンダルはコンラートに触れようとする。
「――……!」
 バチン!と大きな音を立てて、グウェンダルの触れかけた手はたたき落とされた。拒絶された。
 だが。
 グウェンダルは、それには応じずに無理やりコンラートの手を掴み、小さく、手触りの良いものを渡した。
「――?何、これ」
「――猫たんだ」
 短い質問と、短い質問の、短い答え。
 コンラートはまじまじと、そのあみぐるみを眺めた。しばらく時間が経って、吹き出す。
「っ……!これが、猫なんですか?!にっ、似てない……!くっくく……!」
 彼は何回も確認しては大笶いする。ここまでくると、さすがのグウェンダルでもかなり落ち込んでしまった。
「あっ、す、すみませ、ん」
「いや……」
 まずかったな、とコンラートはグウェンダルを覗きこんだ。グウェンダルとしては、この弟が笑ってくれればいい、と思っていたのだが。
 覗くその表情はあまりにも幼く見えて、昔の彼だ、と思う。

「それは……お守りだ」

「……お守り?」
 優しいコンラート。自分ばかり犠牲にしようとして。今も、仲間と共に死に行くような場所へ行く。
「お前が、……いや、お前達が、無事に戻ってこれるように」
 なるべく、優しい声と笑顔で告げる。自分の精一杯の、力で。
 何をこの弟は思うだろう?
 それはどうだっていい。私のことはどう思われようと。だがな、コンラート。お前は、私にとっては特別なんだ。
 頭を撫でてやると、コンラートは俯いた。こうしてやってくれる人物が、今はあまりいないのだろう。

「……――ありがとう、グウェン」


 小さく呟いた言葉は、すぐに消えそうで。小さな子供みたいな声だった。


 たとえそれが死の宣告でも、俺達はあえてそれを選ぼう。
 それが俺達の夢へと繋がればいい。


 ――そして青年は血に染まる。



END



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