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□月蝕―つきはみ―
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ユーリを寝かしつけた後、城の見回りをしていた彼は、そっと溜め息をついた。
全く、暇だ。ユーリがいなければ何もしたいとは思えない。いつも夜は退屈だ。
周囲を見渡すと、警備をしている兵士は皆眠たそうにしている。ここは「警備を怠るな!」と叱るべきか、(平和だな)と感じるべきなのか。けれど兵士達だって眠気を抑えてまで仕事を頑張っているのだ。ここで怒っても兵士達のためにはならない。そっとして置いてやろう。
コンラッドはまた空を見上げた。やはり、月は神々しく輝いている。
満月を見ると、どこか気持ちが落ち着かない。不安になるのだ。けれども、その一方で全ての感情が消えてゆく。不思議だとは思わない。
まるで魂を蝕まばれているようだ。
その美しさがそう思わさせる。
全ての感情が無くなってしまいそうになる。その美しさに魅せられて、全てを奪われてゆく。月を、満月を見る度に。
ふと呼ばれた気がして振り返ると、ユーリがいた。未だにフクロウが鳴いている声が聞こえているのに。
「ヴォルフの寝相がひどくってさぁ、ついでにいびきも煩くって!寝れなくて抜け出せてきちゃったよ」
ユーリはそう言って笑うとコンラッドの手を取り、引っ張った。どうやら今日はコンラッドの部屋に居座るつもりのようだ。
「ユーリ」
「今日はあんたの部屋で寝たいんだ。いいよね」
「それは、いいんですけど」と逆らえずに云うとユーリはとびっきりの笑顔を見せた。その笑顔に騙されて、きっと後でまた、あんなことやそんなことをするんだろうな。と少々がっくりする。それでもユーリが好きだから、するのだけれど。
「……なぁ」
「はい?」
ユーリはコンラッドを見上げた。その表情は真剣だ。黒いその瞳が揺れる。それは、不安で揺れたようだった。
「さっき、月見てたけど……、どうしたんだよ?」
風で小枝が揺れる。ユーリは触れていたコンラッドの手を、強く握った。
「……?ただ、綺麗だなって、思ったんです」
無難にそう返すが、それは嘘だと自分でも自覚していた。ユーリはその答えを聞くと、どこか苦しそうな表情になる。
「嘘つき」