SS

□拍手御礼SS 再録
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ヨザコン/「早く気付いてほしいこの気持ち」



              

 ぐらり、と彼の身体が傾いた。慌てて支えてやると耳元まで真っ赤にしていることに気づく。彼はもともと酒には強い方なのだが今日は珍しく酔ってしまっているらしい。何をやってるんだか、と呆れつつ抱え上げてベッドに運んでやる。
 少しだけ呻いた彼は目を薄く開けた。オレの顔が近かったことと、今抱えられていることに驚いたのか身じろぐ。
「ヨザっ」
「はいはい動かないでくださいよたーいちょ」
 恥ずかしいとでもいうのか下りようと暴れ始めた彼に危ないからやめてくれ、と耳元に風を吹きかけると身体を竦めて睨みつけられた。けれど顔が真っ赤だし、全く怖くなんてない。既に見慣れた表情だ。
「そんなになるまで飲むからですよ」
「煩い」
 わかっていることを言われてむっときたのか眉根を寄せる。長兄によく似た表情だが本人はきっと無自覚に違いない。
「なんかあったんですか」
 仕方なくそう聞くと彼はこちらを見上げて不機嫌そうに鼻を鳴らした。
「お前にはわからなくていい」
 ぶっきらぼうにそう言い口を尖らせる。
 そうやって意地を張ってなんにも言わないのは彼の悪い癖だと思うのだが、彼はこうなると絶対口を割ろうとしない。ため息を吐いて聞くのは諦めた。
「今日はもう寝ましょう? 明日に響きます」
「……」
 黙ってしまった彼に苦笑いして、身体をベッドに横たえてやる。しばらく口を閉じていた彼がおもむろにオレの腕を掴んだ。
「お前なんか嫌いだ」
 強い力で引っ張られてしまってはそれが嘘だとすぐわかる。
「なんです隊長〜、人恋しいんですか」
 わざとふざけた口調でそう言えば「そんなわけないだろう」と彼は拗ねた口調で応えた。
「お前が、気づかないのが悪い!」
 なんで涙目なんですか、なんて言ったら彼を怒らせてしまいそうだ。
(隊長が必死なのってなんだか面白いのよねぇ)
 気づかないふりをしてるってことに、彼が早く気づけばいいのに。
 彼の頭を撫でてやってオレは笑った。

(馬鹿ヨザ……! 思わせぶりな行動ばかり)

 早く気づけ、とどっちも願っていることにはどちらも気づかないままなんだろう。
 だけど、それも面白いかもしれない。



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