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□カナシミノウタ
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切ない
苦しい
助けて
***
か細い声で、唄を唄う。
願いを込めて、独りで。
必死に願う。
必死に許しを乞う。
だが、応えてくれるのは降り注ぐ雨だけだった。目尻から溢れた涙が雨に混じって、落ちる。
それでも、唄う。
それは、悲鳴に近かった。
「助けて」
そう心が叫んでいる。
断罪してくれ。
俺を、殺して――。
「コンラッド!」
まるで悲鳴なような声で、名前を呼ばれる。
その声に俯いた顔をあげると、幼なじみが雨に濡れるのも気にせず駆け寄って来た。
反応する間もなく、幼なじみ―ヨザックはコンラッドを抱きしめる。
「もう、捜しましたよ!」
抱きしめる彼の力が強く、コンラッドは呻いた。
コンラッドの感情は何も浮かんではいなく、ヨザックの言おうとした言葉は意味がない。
それに気づいたのか、ヨザックはコンラッドを離さず、強く抱きしめていた。
コンラッドの表情は無く、無表情だ。大事な者を無くし、悲しみと後悔が彼を占めていた。
小さく呻く彼の声。
涙を流す彼の表情。
からっぽな彼の感情。
雨が体を打ち続ける。
「隊長」
コンラッドはヨザックが強く抱きしめている、その温もりが今は愛おしいと、思った。
「……っ」
切ない
苦しい
助けて、ほしい。
強く、もっと強く。
抱きしめて。
俺を、
――助けて。
瞳を閉じればいつでもあの頃に戻れるのに、現実は違う。
悲しみも、後悔も、流せない。
「ヨザック」
震えた声で、彼を呼ぶ。涙が零れた。
「コンラッド?」
返事があったことに、少し安心する。
「怖いんだ」
失ったものは戻らないと、分かってはいたのに。
失ってしまった。
抱きしめる温もりが、もっと欲しいと、彼の胸に縋り付く。
「――……」
雨がただ、静かに降り注ぐ。
「そうだ、な」
雨がただ、身体を打ち続ける。
何も出来ず、ヨザックは唇を噛んだ。
END