小ネタ集
□遊戯王
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神のナミダ
いつだったか、そんな声を聞いた。まるで赤子が鳴くような声だった。
ゆっくりと瞼を持ち上げると、まず目の前には紅い空が広がっていた。上半身をぎこちなく起こす。
繁栄していた町を象徴するビルの群は、無くなっていた。今はただの瓦礫と化しており、跡形もない。風が吹き抜けてゆく音だけが嫌に響いた。よく見ると瓦礫の下は血の海となっていた。人の四肢、胴体、頭。いろんな部分から血が流れている。そしてそれはおびただしい数の死体から流れている。
周りには誰もいない。自分が、殺した。全て無くなるまで、破壊衝動のままに攻撃し続けた。もしかしたら生きている人がいるかもしれない。それは見つけ次第、また殺す。
感情は浮かばなかった。不思議なほどに、浮かばなかった。感情さえ失くしてしまったのだろう。
仲間だった彼らのホイールを見つけて、彼らもきっと死んだのだと思う。悲しみは浮かばない。後悔も、浮かばない。
これで愚かな人間は死んだのだ。
『――!』
鳴き声が、響く。まるで赤子が母の愛を求め泣き叫ぶような、哀しみに満ちた鳴き声。
星屑の名を持つ、破壊者の竜は泣いた。主の変貌に、運命に。
風が靡く。世界には風と、竜の泣き声だけが響いていた。
『遊星――』
頭に響いた声に、破壊者はサファイヤの瞳から涙を零した。
(神とは、一体なんだ)
感情は浮かばない。感情さえも壊れた。だけれど涙は溢れ続ける。
(オレは、どうしてこんなことをしたんだ)
絶対的な神に、感情などあるはずがないというのに。
(皆、死んだ……?オレが、殺したのか)
竜の泣き声に、瞳を閉じる。遠い昔に聞いたことのある声に近かった。その声は、父に逃される直前の赤子だった自分の声だと気付いた。
あの事故さえなければ、仲間たちは家族と幸せに過ごせていたのに。何故、彼らは自分に笑いかけ、仲間だと認めてくれたのだろう。自分はどう償えばいいのか。
この問いに彼は答えてくれた。
『お前やお前の親父さんのせいなんざ思ったことねぇ!』
『運命があるなら、それは遊星やジャック……皆に出会えたことだ!』
(クロウ……。ジャック、アキ、龍可、龍亞、ブルーノ)
どうして、どうして自分だったのか。
暁の空に咆哮が響く。
それは悲しみの――。
-BADEND-