小ネタ集

□意識する
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 そんなことを今まで意識したことさえなかった。


「・・・・・・っ」
 これはいわゆる間接接吻というものなのではないか。差し出された杯を何気なく、いつも通りに受け取ったまではよかったのだが。飲めない。今まで意識したことなどなかったというのに、今日に至っては無駄に意識してしまって杯を傾けることが一向に出来ないなど、彼に言えることすら、出来なかった。
「どうしたよ?」
「その緩んだ顔をなんとかしろ」と、暴言を吐くことすらできないなんて。
「くっ」
 こうなったら、もう自棄だ。
 コンラートは勢いよく杯を呷ると、中身を一気に飲み干した。ヨザックが感嘆の声を漏らす。それを聞き流して、コンラートは彼にも杯を押し付けた。
「お前も飲め」
「おっいいんですか?」
 ヨザックは大喜びで杯を受け取り、零れるのではないかと思うぐらい多めに酒を注ぐ。それから「これはあんたの奢りってことで」と片目を瞑った。それを聞く余裕すら、今のコンラートにはなかったのだがヨザックが大胆に杯を傾けたところで彼は我に返る。
 墓穴を掘った。
 そう思ったが遅かった。また意識をしたせいで顔が真っ赤に染まる。その間にも杯の中の酒は一気に無くなってしまった。ヨザックはへらへら笑いまた酒を注ぐ。そして、それは再びコンラッドの前に差し出されていた。
「隊長、もう酔っちまったんですか?」
「そんなわけがないだろう」
「ならほら、飲んだ飲んだ」
 何故ひとつの杯を男二人で飲み回さなければならないのか、などと今言ったとしても聞いてくれそうにもない。コンラートは溜息を吐くしかなかった。




END

Up……2011.4/5


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