小ネタ集

□思い出がいっぱい
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 たくさんの思い出が、胸にいっぱいで溢れてしまいそうなんだ。今幸せなんだなぁ。


「起きろ、十代」
「なんだよユベル、まだいいだろ……ん?」
 穏やかな午後。天気は晴れ、ポカポカしていて暖かい。そんな天気だからつい屋根の上にねっころがり寝ていたのだ。ここはニューヨーク、旅人であるオレ遊城十代は気持ち良く昼寝中だった。それを遮るのは自分の相棒か、生涯愛を誓い合った特別な彼しかいない。だけれど、その声は二人とは違っていて、オレの精霊たち……というわけでもなかった。
「起きろ、十代!」
 あぁ、せっかく気持ち良く寝てたのに。とても聞き覚えのある声だが昼寝の邪魔をされて気分はよくない。
「……」
「……」
 わざと狸寝入りをしているとその人物は溜息を吐いて、それから屋根に座り込むとこちらを睨みつけた。
「起きてるんだろ、お前」
「…………」
「十代」
 どうやらばれていたらしい。オレは内心舌打ちを打ちたくなったが正直彼が彼だとわかった瞬間、驚きながらも少し嬉しいと思っていた。
 DAにいて三年を迎えた頃からずっとこの声が、存在が傍にあってとても頼もしかった。今オレは旅人だから会う機会もそうそうないだろう。一度彼を失いかけて酷く怖かったこと。いろいろなことを思い返す。DAにいたときは楽しくて、そして苦しいこともあって、でも彼もまたオレを助けてくれた、大切な友人の一人。
「……どうやって屋根の上に登ったんだ?」
「それは、自力で」
 「二人は似てる」、とよく言われたっけな。彼の返答にそんなことを思う。
「って、何にやけてんだよ、十代! 起きろ!」
「さぁ、なんでかな」
 先程の不機嫌さは何処へやら、すっかり気持ちが明るくなって春風に吹かれたように爽やかな気分だ。ずっと色褪せない思い出がそうさせてくれた。肩を揺さぶられるまま、余裕ぶって口を開ける。
「なぁ、ちょっと久しぶりにデュエルしないか?」
「!」


 瞳を開いた先でヨハン・アンデルセンはあの頃より少しまた大人びた顔をまるで少年のように変えた。懐かしいとかじゃなく、まるでずっと傍にいたような温かさで彼は笑った。



END




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