小ネタ集
□溜息ひとつ
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溜息ひとつ
その日は彼の機嫌が非常に悪かった。
普段滅多にそんなことはない。と、付き合い始めて期間が短いながらもヨハンは知っていて彼の不機嫌がどんな理由からなのか知りたく、つい焦ってしまっていた。一生懸命に話掛けても、彼はずっと口を尖らせて無言を貫く。それがヨハンには耐え切れないことでもあり、彼自身としてもつまらないことだったし、何より彼には笑顔が似合うのだ、ずっと笑っていてほしかった。
ずっと名前を呼んでいると、片眉を上げて十代が口を開く。ようやく声を出してくれるのか。そうヨハンは期待したが彼はすぐにその口を閉ざしてしまっていた。ヨハンは落胆する。
そもそも、十代の機嫌が悪いのは誰の、なんのせいなんだ。
ヨハンは憤慨し始めていた。それを眺める十代はどこか心ここに非ずだったがそれには気づくこともない。
デュエルしよう、とか。そんな話では彼は理由を話してくれない。憤慨と同時にヨハンの心は焦りが加速する。
「ヨハン」
ふいに十代がヨハンを呼んだ。その声音はいつもの彼らしくなく少し頼りなさげだ。
「ヨハンはさぁ、デュエルとオレどっちが好きだ?」
突然の質問に、ヨハンは詰まった。そんなの、選べない。だって自分はデュエルも十代も愛してるから。
少しアンニョイなニュアンスで放たれた疑問はヨハンの思考を止めさせた。不機嫌だと思えば突然こんな質問をされて驚いた、のもある。だけれどこれは恋人同士がやり取りする質問ではないのか。それが十代から放たれるなんて、信じられない。
大きく息を吸い込んだ十代は机に伏せた。それがどういう意味かは、わからない。十代の部屋のベッドの端でヨハンは右手で顔を覆った。
二人のため息が同時に響く。
(変なこと、聞いたよな)
(なんだよそれ、反則)
Up…2011.10/24