小ネタ集
□やさしい背中
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傍にいると安心できる。まるで日だまりの中にいるみたいに彼の傍はあったかい。
苦笑した彼が背中にぶつかったおれの頭を撫でる。大きくて固いその手は少し冷たくて、優しかった。
「ユーリ」
紡がれるその声は柔らかく、心地好い。
「いきなり止まんなよ、コンラッド」
文句を言ってみても、彼はくすりと笑うだけだった。けれど悪い気はしない。なにしろそれはとてもあったかく、悪意のカケラも見えない優しい笑みだから。
「すみません」
おれをからかってないか、とか。そんな言葉も浮かんだが彼の笑顔を見るとそんなことは言えなくなる。
結局おれは彼が好きだ。たとえ裏切られても、悪い人だったとしても。多分おれは彼を嫌うことはないだろう。
「コンラッド」
背中から抱き着いてみると、彼は微笑んでおれの背中に手を回してきた。優しく二回ほど背中を叩かれる。
彼の背中からは太陽の匂いがした。ここ最近は争いは起きず、剣を抜くこともない。あったかい、あったかい陽の匂い。今の彼がおれは好きだ。
「ユーリ?」
ぎゅっと力を込めたら彼は不思議そうな表情で首を傾げた。
あったかい彼が好きだ。ずっとおれの傍にいてくれればいい。優しい彼が好きだ。ずっと傍にいてほしい。――なんて言えばきっと彼は笑うだろう。子供を見るような、瞳で。
でもおれはそんなことしか言えないんだよな。
率直に好きだ、って言えたらいいのになぁなんて思いながらおれは彼の背中に頭を押し付けた。
ヴォルフラムがやってくるまであと何分だろうか。
2011.10/25