10/25の日記

05:13
遊星+ブルーノ
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 大丈夫だよ、大丈夫だからね。そう言いながら屈んでいる背中は見慣れた青年のものだった。ゆっくりと近付いてみると彼の目の前には段ボールが置かれていて、微かに「にゃあ、にゃあ」とか細い鳴き声が聞こえる。
(……捨て猫、か?)
「あぁ、こんなに濡れて可哀相に。拭いてあげるからちょっと大人しくしててっ……」
 こちらに気付いたらしい青年が息を呑んで振り返った。さしていた傘がずれて、彼……ブルーノに雨が当たる。それをぼうっと立ったまま見守っていた遊星は慌てて自分の傘を彼の頭上に差した。
「遊星……! 驚かせないでよ」
「すまない」
 悪気はないのだと判断したのか、ブルーノは驚いた表情を和らげる。またにゃあ、と小猫が鳴いた。


 高台の時計は午後三時を示しており。天気予報通り、今日は雨が降り続いていた。いつここに置かれたのかはわからないが、この小猫たちも寒かっただろう。
「……その子たちはどうするつもりだ?」
「うん、……飼ってあげられるといいんだけど」
 遊星の言葉にブルーノは表情を曇らせる。言わずもがな、ブルーノの居候しているポッポハウスにはそんな余裕はないため、断られるのは当然だろうからだ。実際、ブルーノ自身も一度断られている。
 遊星も、この小猫たちを飼ってやりたい気持ちは山々なのだが、そんな経費は認められないはず。
「誰か、里親になってくれる人を捜すしかないか」
 遊星の言葉に、ブルーノは俯いた。
「そうだね……せめて、誰か幸せにしてくれる人を捜してあげようよ」
 しょんぼり、としているブルーノを慰める言葉が出てこず、遊星は微かに眉を下げる。
「大丈夫、きっと見つかるさ」
 ありきたりな言葉でブルーノに立つよう促す。遊星が差し出した手をブルーノは一瞬ためらいながらも取った。にゃあにゃあ、と縋るように子猫が鳴く。ブルーノはその子猫たちの頭を優しく撫でて、そうっと彼らの入っているダンボールを持ち上げた。
「大丈夫だよ」
 不安げな声をあげる子猫たちに何度も「大丈夫」と言い聞かせる。遊星も、子猫たちの頭を撫でて微笑みかけた。逃げ出さない、ということはこの子たちは人間に警戒心を持っていないのだろう。生まれてすぐ捨てられた、というわけではなさそうだ。いや、警戒心を持つ以前に捨てられてしまったのか。
 里親になってくれそうな人、といっても簡単に見つかるとは思えないが。このまま放っておくわけにはいかない。
 まず、とある新聞記者に当たってみた。
「うーん……お金の余裕があれば買ってあげたいんだけど」
 彼女は首を傾げ悩む様子を見せる。特徴的なグルグル眼鏡が少し傾くのを直しながらも、彼女は心底申し訳なさそうに首を横に振った。
「ごめんね、ちょっとうちにはそんな余裕ないの!でもやっぱ可愛い……」
 心は揺らいでいるようだが、やはり飼えないと言われて遊星とブルーノは顔を見合わせる。
「そうか……すまなかった」
「あ、でも力になれることなら応援しちゃうんだから!ジャックに宜しくね」
 彼女は二人の反応に慌てた様子でそう言った。いつもながら、慌ただしい娘である。再び顔を俯かせたブルーノを見やり、遊星は彼の背中を優しく二度叩く。それに気付いたブルーノは遊星の方を一瞬見ると真っ直ぐに顔を上げた。
「やはりなかなか簡単には見つからなさそうだな」
 外の雨は未だ止まず、冷たい空気が二人と子猫たちの頬を撫でていく。遊星は傘を差すと再び里親になってくれそうな人物がいる場所へと歩き始めた。

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