10/26の日記

05:11
ブル+遊←ジャ
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 嫉妬で気が狂いそうだ。


 室内に響く軽快なダイビング音にソファーに座る青年は眉を寄せた。その音の中に二人の青年の声が乗せられている。それは実に楽しそうな、明るい声だった。
 二人の青年の内、一人は普段は冷静であまり感情をストレートには表さないのだが、今の彼は楽しそうで。それが青年の神経を逆なでする。
 いつまでやっているのだ。
 昨日からこの調子だ。おそらくまた徹夜したのだろう。よく飽きないものだ。あぁ、本当に。
「ここはこうすると……」
「なるほど、これなら……」
 唇を強く噛むと微かに血の味がした。
 突然現れた記憶喪失の青年。彼は自分の愛車、W*O*Fに手を出し弄った上、幼なじみの心まで掴んでしまった。
 幼なじみ、――遊星はそんなホイホイ心を開く奴ではない。育ての親の言い付けや、元々の環境からか一体距離を見て信頼出来る人にのみ心を開く。彼は人々を引き付けるが人見知りな面があったのだ。
 それなのに、ブルーノという青年はいとも簡単に遊星の信頼を奪っていった。遊星は彼を認め、彼と共に作業をするのが楽しそうだった。
 何故だ。
 自分は機械のことをよく知らない。手伝うことは出来たが、プログラミングまでは出来ない。それに対してブルーノは機械に強い。それも遊星と同じかそれ以上に技術があった。
 悔しい、悔しい。
 嫉妬で気が狂いそうになる。
「よく飽きねぇよな……」
 もう一人の幼なじみ、クロウが呆れたように言う。
「なんだか、オシドリ夫婦みたいだね」
「龍亞。それ、男と女の人に言う言葉よ」
 双子の言葉には苛立ちを隠せない。遊星に恋情を抱いているらしい少女はヤキモキを妬いて出て行ってしまった。少女と同じ苦い思いになる。沸騰しそうだ。
 あのとき怒りに任せて連れてくるべきではなかった。
「遊星」
「ブルーノ」
 ここはこうしようやれ、仲良く作業をしている二人の間に割りいれるものはいなかった。割り入れるような雰囲気ではない。あんなに楽しそうにしている遊星は珍しい。それを邪魔することなんて皆、出来ないのだ。それは彼を慕うからこそで、皆遊星のことが大切だった。
 もちろんそれは自分も例外ではない。遊星は大切な幼馴染で、唯一認めた生涯のライバルだ。だがだからこそ彼を奪われるのは面白くない。
 クロウはそうっと朝から不機嫌そうなジャックを覗き込んだ。これはかなり頭にキテいるな、と判断する。作業が終わったらブルーノには拳が打たれるだろう。理不尽なことだが今のジャックの表情はその光景を想像させるには十分だった。ご愁傷様なこった。
 ジャックは定期的に唸り、怒りを表していた。だがそれはもちろん作業に夢中になっている遊星とブルーノには届いているはずがなく。怒りのボルテージは上がっていくだけである。ジャックの眉間の皺がさらに刻まれていく。もうそろそろ限界らしい。怒鳴り声が響く前にとクロウはガレージからそぅっと抜け出した。
 ジャックが靴音高らかに二人に近づく。遊星はそれに気付いて顔を上げた。だがその瞬間、彼はジャックに胸倉を掴まれてしまう。ブルーノがぎょっとした表情で二人を見た。遊星は驚きを隠せないようだ。そのままジャックを見上げる。
「……ジャック」
 遊星は何故こんなことをされなければならないのか、心底わからないという表情をしていた。ジャックはさらに機嫌を悪くしていく。
 第三者から見ればジャックが怒りを露わにしていることはなんとも理不尽な理由なのだと思うかもわからないが、この怒りをぶつけなければ気がすまないらしい。遊星は胸倉を掴んでいるジャックの手に利き手を置いてなんとかその手を離してもらおうとした。
「ジャック」
 明らかに困惑した声で、遊星はジャックを落ち着かせようとしている。しかしジャックは胸倉を掴んだ手を一向に離そうとはしなかった。
「だめだよジャック! 暴力反対……っうわっ!」
 ブルーノが間に入ろうとするものの、遊星を掴んでいる手とは反対側の手で思いっきり殴られた。
「ええいっ貴様は黙っていろ!」
「何をそんなに怒っているんだ、ジャック」
 遊星がブルーノを気遣うような仕草を見ると、途端に怒りが湧き上がる。ジャックは相変わらず鈍い遊星に頭を抱え込みたい衝動にも駆られたが、今はとにかく彼に怒りをぶつけなければと遊星をきつく睨んだ。

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