06/04の日記

19:36
まるマでミタさんパロ
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 それこそ最初はどこの家庭とも変わらない幸せな毎日だったと思う。
 妻は子供たちを愛していたし、子供たちもみな母親が大好きだった。毎日暖かくて美味しい手料理を食べて一緒に笑っていた。だが。
 妻は、母親は亡くなった。
 子供達はとにかく悲しんだ。どうして、と叫び涙をボロボロと流した。事故死だった。少なくとも、子供達の中では。
 これから五人で生活しなければならない。しかしまだ小さいグレタもいる。彼女はまだたったの5歳で幼稚園に連れていき迎えに行くとしても、おれはサラリーマンの課長でそんな余裕もなかった。だから、家政夫を雇った。
 彼はやってきた。彼が無表情で家の扉を叩いたそのときから、奇妙な生活が始まったのである。


「いってらっしゃいませ」
「帰ってくるまで子供達を、頼みます」
 そう頼めば、
「承知いたしました」
 と彼は機械のように言った。
 彼はまるで機械のようだ。それが第一印象だった。無表情で無感情。頼まれたことは何でもやるし完璧に熟す。子供達も呆気にとられるほど、人間らしくないのである。普通の人間なら気持ち悪いとも思うのだろうが、末っ子、次女のグレタは彼を気に入ってしまったようだった。
 男にしては長いダークブラウンの髪を後ろに纏め、こちらを無感情の薄茶の瞳で見つめている。よくよく見ればその瞳には銀の星が散らばっているようだった。
「行ってきます」
 上手く笑えていないのは自分でもわかったが彼は顔の筋肉すら動かさなかった。


 仕事を終えようやく帰宅した夕食前、長女のギーゼラが耳打ちしてくる。
「あの人、たしかになんでも完璧だけど、少し変よ」
 その彼は黙々と人参の皮を皮剥き機で向いている。やはり無表情でどこか不気味だ。
「まぁ、家事をやってくれているんだし」
 おれがそう言うと長男のヨザックは嫌そうな表情を浮かべた。少し気に入らないようだ。次男の健は気味悪さを感じてはいるようだが興味なさそうにしている。
「コンラッドさんの料理楽しみだなぁ」
 唯一、幼い末っ子、グレタは無邪気に彼の料理を待っていた。
 家事を熟してくれて自分としては助かっているのだが、彼のことは何一つわかっていない。話している間にも料理が出来上がったようで、無感情な声がリビングに響く。
「お夕飯の準備が、出来ました」
 顔を見合わせた子供達がテーブルの席へ着くと、そこには何もかも美味しそうでバランスの整った料理が用意されていた。始めにヨザックが一口食べて驚いた声をあげる。
「これ……母さんの料理と同じ味だ」
 その一言でギーゼラたちも料理を口に運び同じく驚愕した。
「あんた、なんで!」
「その家庭の味を研究し、お出しするのが家政夫の仕事ですから」
 ヨザックの問いに無機質な声で彼は答える。
 普通なら、子供達が母親の味だと言うほどの調理などそこまで完璧には出来ないだろう。しかし彼はそれを出来てしまった。これには驚きを隠せない。
 この人は一体何者なんだ。
 おれたちはただ驚くことしか出来なかった。無表情な彼を問い詰めても、答えは返ってこないだろうから。

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