10/31の日記

00:19
電子獣/シャウタイ
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 彼がふらふらとしていたからこれはぶっ倒れてしまう前兆だとすぐに気づいた。今まで付き合ってきたのだからこれぐらいはすぐにわかる。
「タイキ、ちょっと休め」
 彼の服の端を掴んでこちらに意識を向けさせるとシャウトモンはタイキにそっと注意した。首を傾けた彼は傍から見れば顔色が悪いとすぐわかるほどで、やはり今までの疲労が溜まっていたのだろうことを伺わせる。しかし彼は首を横に振ってそれを拒むようだった。
「まだ、大丈夫だから。もうちょっとだけ」
 と無理やり笑った顔でタイキはシャウトモンに乞いた。
 後輩たちは自分たちのケンカに夢中でタイキとシャウトモンの様子に気がついていないようだ。
 こうなるとタイキは制止の言葉も聞かずにぶっ倒れるまで動き続ける。それだけはあって欲しくないシャウトモンはなんとかタイキを止めようと手を引っ張る。困ったようにシャウトモンを見るタイキは今にも倒れてしまいそうだった。
「タイキ」
 シャウトモンが心配してくれるのは嬉しいし、それを無駄になんてしたくないという気持ちはタイキにもあるはずだ。けれど、「ほっとけない」と彼は突っ走り続けるだろう。「大丈夫だって」、そう言って笑う彼だがどうもその顔色は悪い。いつも他人のために走り回り全力を尽くした後は倒れてしまうのは一体どこのどいつだと言ってやりたい気分だがそう言ったとしても彼は多分止まらない。付き合ってみればわかることがたくさんある。
 だけれどやはり、このままでいかせるわけにはいかない。ほっとけない、と走り回ったあげく倒れるのはやはりいいことではないとシャウトモンは捕らえているのだ。アカリだってそんな工藤タイキという少年を心配して休みの日試合があれば駆けつけて傍にいるのだし、なによりそれは彼のためにならない。休憩することだって重要だ。
 だから、こうしてここにいるわけである。タイキの方は突然連れてこられた意味がわからず呆然としているがなによりこの"場所"はなんだ、という顔をしている。
「なんで、スイーツゾーンなんだ?」
「疲れを取るには甘いものがいいって言うだろ?」
 二人が降りついた場所はかつてバクラ軍の部下とスイーツバトルをしたスイーツゾーンがあった場所だった。変わらずファンタジックにすべてがお菓子で構成されている。
「まぁ、そうなんだけどさ」
 タイキは取りたてて甘いものが好きというわけではないもののシャウトモンの心遣いを無駄にするわけにはいかないととりあえず、中心に聳え立つ城に向かうことになった。
 デジタルワールドのキングと、かつてこの世界を救った英雄の少年。この二人の訪問に町がざわつき始めてはあっという間に話は広がり、大勢のデジモンたちが二人を見物するように通路に押しかけていた。中には二人を見て感動し感極まって拝み始めるものまでいる始末である。
「ネネの行き着けのクレープ屋がここにあるんだってよ」
「へぇ」
 シャウトモンは町の中心部に並ぶ店を顎で示しながらタイキに教えた。確か以前一緒に行動していたとき彼女がそう言っていたのだ。ネネの行き着け、と聞いてタイキも少なからず興味を示していたので後で行ってみようぜ、と付け足すとタイキは小さく頷く。
 城門を通るとこの城の主自ら出迎えてくれたようで小規模の自衛団が主の後ろで待機していた。こそこそと話し声も聞こえるがすべてタイキとシャウトモンの訪問に関するもので、あまりにも唐突に現れた二人に対する驚きと感嘆の声が大体を占めている。しかし主がやや大げさに腕を広げて歓迎の姿勢を取れば一律にみなピシィッと姿勢を正し、私語は完全に無くなった。
「ようこそおいでなさいましたわ、キング、そして赤のジュネル工藤タイキさん! スイーツランド一同歓迎致します」
 この城の主、ウェディンモンは優雅に扇子を広げて歌を高らかに歌い上げるように真っ直ぐに腕を伸ばした。鮮やかな朱の唇は笑みを湛えている。スイーツランドの女主人といったところであろう。
「ありがとう。唐突で申し訳ないけど、歓迎して貰えて嬉しいよ。な、シャウトモン」
「ああ」
 タイキがシャウトモンに同意を求めるとシャウトモンもまた相槌を打った。それをみてウェディンモンの頬に朱が差す。
「嬉しいですわ、お二人にそうおっしゃっていただけるなんて……! ささ、中へ!」
 ウェディンモンはそそくさと早足に城内へと入る扉へと案内した。タイキとシャウトモンは顔を見合わせ、言われるままに城内へと足を踏み入れる。甘いケーキの香りはまるで二人を誘うようだ。タイキは歩きながらシャウトモンに話しかける。
「アカリたちも、連れてこればよかったなぁ。アカリ、スイーツマスター自称するぐらいこういうの好きだって言ってたし、あのときはこんなゆっくり出来なかったもんな」
「そうだな……あいつらにも食わせてやりたいぜ。なんたって、ここの主人が作るスイーツは絶品だそうだからな。でもオレも食べるのは初めてだぜ」
「へぇ」
 シャウトモンもここの菓子を食べるのは初めてだと聞いて、タイキは意外そうな表情を浮かべた。王様なのだからてっきり奉納させてもらってたりしてるのではないかと思っていたのだがそうではないようだ。嫌いなわけではないだろうし命令すればすぐに食べさせてもらえそうなものなのに。
(でも、わざわざこうして出向くほうがシャウトモンらしいよな)
 そんなシャウトモンよりも昔と変わらないシャウトモンの方が好きだ。タイキはシャウトモンのマフラーの先を視線で追いながらもそう思った。


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